あなたの未来を変える「朝ごはん」ー女子栄養大学副学長 香川靖雄先生
長年、栄養学に携わり「朝ごはん研究」の第一人者でもある女子栄養大学副学長の香川靖雄先生に、朝ごはんの大切さについて詳しく伺ってきました。
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学力も体力もアップさせる朝ごはん
私は自治医科大学で、学生の学業や生活を長年サポートしてきました。この大学は、へき地など医療に恵まれない地域での医療を充実させるために設立された全寮制の大学です。入試制度が通常と異なり、各都道府県の定員枠によって選抜されるので、入学時の学力はかなりの差がありました。また卒業後は各都道府県の医師として派遣先が決まっているので、在学中に必ず医師国家試験を合格させることが大学の最重要項目でもありました。
そこで、私は、国家試験の合格率を高めるために大改革を行いました。それは、規則正しい生活を6年間の寮生活で徹底することです。きちんと早起きするなどのほかに、特に力をいれたのはバランスのよい朝ごはんをしっかり食べさせることでした(※1)。こうした生活指導を続けたところ、徐々に結果となってあらわれ始め、ついには合格率100%、全国順位1位となりました。自治医科大学は現在も高い合格率を維持し(※2)、卒業生は皆、立派な医師として活躍しています。
以降もさまざまな研究を行い、朝ごはんを食べると学力や体力がアップすることがより明らかになってきました。例えば、毎日朝ごはんを食べる人は食べない人に比べて、学業成績が高く、さらにバランスのよい朝ごはんを食べるほうが、より成績が高い結果がでています。また体力も同様で、毎日朝ごはんを食べる人ほど体力テストの点数が高くなることが、多くの研究で証明されています。
生活習慣病も防ぐ?
それでは、どうして朝ごはんが脳や身体にいい影響を与えているのか紐解いていきましょう。
人間の細胞には「時計遺伝子」というものが備わっていて、朝になると目覚めて、夜になると眠くなるのは、このためです。いわゆる体内時計をコントロールしているのです。この時計遺伝子のおかげで、わたしたちの脳と身体は、毎朝活発に動いてくれます。
しかし厄介なことに、その周期は25時間。1日(24時間)と1時間ズレています。もしこのズレを直さないで過ごしてしまうと、頭がしっかり働かなかったり、いつも身体がだるかったり、眠気がとれなかったり。さらにこの状態が長引くと、次第に生活習慣病を招きやすい身体になってしまいます。精神にも影響し、うつ病を発症する恐れも。まさに現代の病を招いているひとつの要因ともいえます。
体内時計のリセットボタン
そこで活躍するのが「朝ごはん」。朝起きたら光を浴びますよね。そして、朝ごはんを食べる。これは昔から続いている人間の習慣ですが、実は、体内時計をリセットするボタンなのです。こうしてちゃんと毎日リセットできていれば、前述のように、脳も身体も自然と活発な活動をしてくれます。これが「朝ごはん」が学力と体力をアップさせる理由です。
ぜひ、朝起きたら光を浴びて、朝ごはんを食べる習慣をつけてください。朝ごはんを食べないと、将来にわたって自分の身体やココロに大きなリスクとなることを忘れないでください。
※1 自治医科大学は、6年間の全寮制で、学生たちは授業も食事も同じという均一の環境で過ごしていた。唯一、早起きして朝食を食べるかが学生によって差があり、朝食と成績の相関を調べるのに理想的な条件がそろっていた。
※2 37年間で全国トップを13回、合格率100%を5回達成している。医師国家試験(第1~100回)の大学別合格率平均は約84%であり、常にトップに君臨する自治医科大学の合格率は驚異的である。
朝ごはんのおしえてQ&A
Q.朝ごはんはパンだけでも大丈夫?
朝ごはんといっても、「何か口に入れておけば大丈夫!」ではないことに注意してください。
食パン1枚、おにぎり1個などの炭水化物だけの食事では、脳は十分に働きません。時計遺伝子が働くためにも、タンパク質と炭水化物がそろった食事が必要です。ですから、ぜひ主食・主菜・副菜・汁物の4つがそろったバランスのよい食事を心がけてください。
Q.朝ごはんが肥満を防ぐってホント?
はい、そうなんです。
毎日の朝ごはんは、食生活を整えてくれる働きもあります。朝ごはんによって夜食べる量が自然と抑えられるので、食べ過ぎによる肥満を防ぐことができるのです。かえって朝ごはんを食べないと身体が飢餓状態となり、その後の食事、特に夕食をたくさん食べるように、脳が働きかけてしまいます。
Q.朝は食欲が出ないんですけど・・・
朝ごはんを食べない人の理由として多いのですが、まずは少しずつ朝ごはんを食べる習慣をつけてみてください。
続けていくと、次第に適切な時間に空腹を感じ、夜になれば眠くなるので夜更かしも減ります。生活バランスが正常になれば、朝起きたら自然とお腹がすくようになりますよ。ぜひチャレンジしてみてください。
香川靖雄 先生
女子栄養大学副学長。自治医科大学名誉教授。
医学博士(東京大学)
1932年東京生まれ。東京大学医学部卒業。聖路加国際病院、米コーネル大学生化学分子生物学客員教授、自治医科大学教授などを経て、現職に。主な研究領域は人体エネルギー学、栄養学。著書に『時間栄養学-時計遺伝子と食事のリズム』『香川靖雄教授のやさしい栄養学』(女子栄養大学出版部)、『生活習慣病を防ぐ』(岩波新書)などがある。
※この記事は、2015年2月発行『BASE』vol.1の記事を転載・編集したものです。
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