1. Home
  2. 進学・受験・入試のこと
特集 奨学金を知る、考える
保護者におすすめ! 進学・受験・入試のこと進学・受験・入試のこと

2025年度からの給付型奨学金制度改革を徹底解説~多子世帯への拡充と学業要件の厳格化~

2025年度からの給付型奨学金制度改革を徹底解説~多子世帯への拡充と学業要件の厳格化~
「奨学金を正しく知ること」「賢く活用すること」をテーマに当サイトでも多くの情報を提供してくださっている奨学金アドバイザー 久米忠史さんの執筆による最新情報です。2025年度から大きく変わる給付型奨学金制度について、保護者の方々が知っておくべき重要ポイントを徹底解説します。

⏱この記事は約8分で読めます

【この記事のポイント】

  • 2025年度から多子世帯への支援が大幅拡充
  • 多子世帯は所得制限なしで授業料等減免が可能
  • 支援を受けるにはJASSOへの申請手続きが必要
  • 学業要件が2025年度から厳格化

2020年度から始まった高等教育の修学支援新制度(給付型奨学金+授業料等減免)は、年々拡充されています。2023年度には全国で約12万人が新規採用され、同年度の貸与型の新規採用者39万人と比較すると、多くの家庭がこの制度の恩恵を受けていることがわかります。

この修学支援制度は、当初は住民税非課税世帯など経済的に厳しい家庭を対象に、第1~第3区分の3段階で支援を行ってきました。しかし、2024年度からは第4区分が新設され、4人世帯年収600~800万円程度の中間所得層まで支援対象が広がりました。さらに、2025年度からは「多子世帯」への支援が大幅に拡充されます

本稿では、目まぐるしく変化する修学支援制度の最新情報と、特に保護者の方々が注意すべきポイントを解説します。

2025年度から始まる多子世帯への支援拡充

多子世帯支援とは?

2024年度に始まった第4区分の対象は、「3人以上扶養する子どもがいる多子世帯」または「私立の理工農系分野への進学者」に限られていました。

重要な変更点

2025年度からは、多子世帯については所得制限を設けずに授業料等の満額減免支援が受けられるようになります。

これにより、多子世帯では実質的に国立大学の学費がほぼ無料になり、私立大学でも入学金26万円、授業料70万円を上限に本来の学費から減額されます。

多子世帯への授業料等減免上限額(年額)

下表は多子世帯が受けられる授業料等減免の上限額を示しています。

学種国公立私立
入学金授業料入学金授業料
大学282,000円535,800円260,000円700,000円
短期大学169,200円390,000円250,000円620,000円
専門学校70,000円166,800円160,000円590,000円

⚠️保護者が特に注意すべき点

注意点① ~JASSOの給付型奨学金への申請が必要~

修学支援を受けるためには、日本学生支援機構(JASSO)の給付型奨学金への申請が必須です。

よくある誤解: 「多子世帯は自動的に減免されるのでは?」

正しい理解: 所得条件を超えている多子世帯であっても、学費の減免を受けるためにはJASSOの給付型奨学金への申請手続きが必要です。給付型奨学金自体には採用されなくても、申請時に提出したマイナンバー情報をもとにJASSOが多子世帯判定を行います。

つまり、多子世帯であっても、入学すれば自動的に減免支援が受けられるわけではなく、まずはJASSOへの申し込みが必要です。

注意点② ~所得制限は無くても資産要件はある~

修学支援では、成績要件のほか、収入要件と資産要件が設けられています。

資産要件の対象: 預貯金や有価証券などすぐに現金化できるもの(不動産などは含まれません)

2025年度からは資産要件が以下のように変更されます。

修学支援(給付型奨学金+授業料等減免)の資産要件

対象2024年度まで2025年度から
第1~第4区分2人親 2000万円未満
1人親 1250万円未満
生計維持者の数に関わらず
5000万円未満

修学支援(授業料等減免のみ)の資産要件

対象2025年度から
収入要件超過の区分外の多子世帯生計維持者の数に関わらず<br>3億円未満

2025年度からの支援内容のイメージ

以下の表では、世帯年収別の支援内容を一覧でご確認いただけます。特に多子世帯については、年収に関わらず授業料等減免が満額支援される点が重要です。

世帯年収採用区分世帯給付型奨学金授業料等減免
~270万円第1区分1子・2子満額給付満額減免
多子満額給付満額減免
~300万円第2区分1子・2子2/3給付2/3減免
多子2/3給付満額減免
~380万円第3区分1子・2子1/3給付1/3減免
多子1/3給付満額減免
~600万円第4区分私立理工農系無し大学(1/3減免)
短大・専門(1/4減免)
多子1/4給付満額減免
600万円~区分超過1子・2子無し無し
多子無し満額減免

具体的な支援額

下記の表では、各区分ごとの具体的な支援額をご確認いただけます。特に多子世帯の方は、ご自身の年収区分と対応する支援額をチェックしてみてください。

給付型奨学金の支援額(月額)

学種採用区分国公立私立
自宅生自宅外自宅生自宅外
大学
短大
専門
第1区分29,200円66,700円38,300円75,800円
第2区分19,500円44,500円25,600円50,600円
第3区分9,800円22,300円12,800円25,300円
第4区分(多子世帯)7,300円16,700円9,600円19,000円

2025年度からの授業料等減免の上限額(年額)※大学の場合

大学進学を検討されている方向けに、授業料等減免の上限額を詳しく掲載しています。多子世帯は全ての区分で満額支援を受けられることがわかります。

学種採用区分世帯国公立私立
入学金授業料入学金授業料
大学第1区分1子・2子282,000円535,800円260,000円700,000円
多子282,000円535,800円260,000円700,000円
第2区分1子・2子188,000円357,200円173,400円466,700円
多子282,000円535,800円260,000円700,000円
第3区分1子・2子94,000円178,600円86,700円233,400円
多子282,000円535,800円260,000円700,000円
第4区分1子・2子
理工農系
86,700円233,400円
多子世帯282,000円535,800円260,000円700,000円
区分外多子世帯282,000円535,800円260,000円700,000円

2025年度からの学業要件の厳格化

修学支援は学費負担を大幅に軽減する有難い制度ですが、支援を継続して受けるためには、学業成績と家計基準を満たす必要があります。2025年度からは学業要件がこれまでよりも厳しくなる点に注意が必要です。

高等教育の修学支援新制度の学業要件

修学支援の採用段階では、学業成績よりも家計基準が重視されます(高校の評定平均3.5未満の場合は、「面談やレポート等で学修意欲が確認できること」)。

しかし、一度採用された後の継続審査(適格認定)では、毎年の学業成績と家計基準によって以下のような判定がなされます。

【適格認定の区分】

  • 継続:支援が継続される
  • 警告:支援は継続されるが、翌年も成績が向上しなければ「停止」または「廃止」
  • 停止:一定期間の支援が停止される
  • 廃止:支援打ち切り(奨学生の身分喪失)

学業要件による適格認定の実態(2023年度)

項目2023年度
【給付】 廃止(返還必要)0.2%
【給付】 廃止(返還不要)3.3%
【給付】 停止1.6%
【給付】 警告11.7%

※出所:JASSO業務実績等報告書

注目すべきは、学業要件が厳しくなる前の2023年度でも、10人に1人以上が「警告」を受けている点です。

2025年度からの学業要件(警告基準)

警告 要件▶ 出席率が8割以下
▶ GPA(成績評価)が所属学部等の下位4分の1
▶ 修得単位数が7割以下

実際の影響: 出席率8割以下というのは、半期15回の授業であれば3回の欠席で警告要件に該当します。親元を離れて一人暮らしをする学生が生活の乱れから授業に遅刻・欠席してしまうことは十分考えられます。

また、GPAが下位4分の1という要件も要注意です。現在は私立大学の約6割の入学者が推薦型・総合型選抜で入学しています。自身の学力以上の大学に合格できるケースがあるため、真面目に努力していても下位4分の1に入ってしまう可能性があります。

修学支援の認定取消し大学に注意

修学支援では、学生側の採用基準だけでなく、大学や短大、専門学校も一定の要件を満たさなければなりません。

機関要件の例: 直近3年間の定員充足率が8割未満(大学・短大)、5割未満(専門学校)などの場合、修学支援の認定が取り消される可能性があります。

文部科学省では毎年8月末に認定を取り消した教育機関を公表しています。制度開始以来、認定が取り消されたのは学生募集停止の2大学を除き、短大と専門学校だけでしたが、2024年8月30日には、大学(13校)、短大(31校)、専門学校(34校)が公表されました。

保護者・受験生が特に注意すべき点: 修学支援の認定外の学校に進学すると、学生自身は基準を満たしていても支援が受けられません。8月末は多くの受験生が志望校を決める時期であり、総合型選抜は9月からエントリーが始まります。修学支援に採用され、志望校に合格しても、進学先が認定外となれば資金計画が大きく狂ってしまいます。

JASSOの給付型奨学金を申請予定の方は、志望校が認定外になっていないか確認することをお勧めします。

文部科学省 認定外となった大学等の公表
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/hutankeigen/1420041.htm

保護者・受験生の今後のアクション

✓ JASSOの給付型奨学金申請要件を確認する
✓ 志望校が修学支援認定校であるか確認する
✓ 多子世帯に該当する場合は資産要件をチェックする
✓ 学業要件をお子さんと共有し、支援継続の重要性を理解してもらう

まとめ

2025年度から始まる給付型奨学金制度の改革は、特に多子世帯にとって大きなチャンスとなります。所得制限なしで授業料等の満額減免が受けられることで、これまで経済的な理由で進学を諦めていたご家庭にも道が開かれます。

一方で、制度を利用するためには申請手続きや資産要件の確認が必要であり、また継続して支援を受けるためには学業要件もこれまで以上に厳しくなります。進学先の選択においても、修学支援の認定校であるかの確認が欠かせません。

お子さんの将来のために、この制度を有効活用するためには早めの情報収集と準備が重要です。ぜひこの記事の情報を参考に、お子さんの進学計画に役立ててください。

【奨学金なるほど!相談所】
奨学金アドバイザー 久米忠史さんの公式サイトです。
https://shogakukin.jp/

【最新著書】
奨学金の完全活用ガイド2022
https://amzn.asia/d/bm9Oafy

ライター
久米 忠史(奨学金アドバイザー)

奨学金アドバイザー・久米忠史 (くめ ただし)

株式会社まなびシード 代表取締役 2005年頃から沖縄県の高校で始めた保護者・高校生向けの奨学金ガイダンスが「わかりやすい」との評判を呼び、現在では高校だけでなく全国各地で開催される進学相談会や大学のオープンキャンパスなどで毎年150回以上の講演を行う。2009年には進学費用対策ホームページ「奨学金なるほど!相談所」を開設。

【著書】
『奨学金完全活用ガイド2022』(合同出版/2022年)
『奨学金まるわかり読本2020』(合同出版/2020年)
『薬学生のための奨学金まるわかりガイドブック』※監修(ユニヴ/2018年)
『借りる?借りない?奨学金見極めガイド 最新版』(合同出版社/2018年)
『借りる?借りない?奨学金見極めガイド』(合同出版社/2015年)
『子どもを大学に行かせるお金の話』(主婦の友社/2012年)

tagsTAGS

タグ検索