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【奨学金アドバイザー監修】「高等教育の修学支援新制度(大学無償化)」制度拡充のポイントを解説

更新日 2024.04.05
【奨学金アドバイザー監修】「高等教育の修学支援新制度(大学無償化)」制度拡充のポイントを解説
「大学無償化ってどういうこと?いつから始まるの?」
「うちの家庭は大学無償化の対象になるの…?」

2024年度から2025年度にかけて、『高等教育の修学支援新制度(大学無償化)』が拡充されます。中間所得層世帯への支援が創設される2024年度の制度拡充、所得制限無しで多子世帯への支援が始まる2025年度の制度拡充について、具体的な変更点や注意点を奨学金アドバイザーの久米さんにわかりやすく解説していただきました。

⏱この記事は約8分で読めます

目次

2020年度に開始した「高等教育の修学支援新制度(大学無償化)」とは?

「”大学無償化”って何?」

まずはおさらいしましょう。

いわゆる「大学無償化」と呼ばれるのは、正式名称を「高等教育の修学支援新制度」といい、住民税非課税世帯など特に経済的に厳しい低所得家庭を支援するために、2020年度から始まった政府の取組みを指します。

世帯収入の目安と採用区分

現行の修学支援新制度を利用するためには、住民税非課税世帯あるいはそれに準ずる世帯に該当している必要があります。

4人世帯の場合の世帯年収の目安は以下の通りで、収入状況に応じて3段階の採用区分・支援割合が取られます。第1区分は住民税非課税世帯、第2・3区分はそれに準ずる世帯となっています。

※2025年度入学者の予約採用での収入基準目安額

給付型奨学金と授業料等減免の両面で支援

支援制度の肝となるのが、給付型奨学金と授業料等減免の2点です。

給付型奨学金は返済不要な奨学金で、日本学生支援機構(JASSO)から原則毎月振込が行われます。給付型奨学金の給付年額は下表の通りで、採用区分に応じた支援が受けられます。

授業料等減免では、進学する学校の種類に応じて、入学金と授業料の二面で支援が受けられます。第1区分(満額支援)採用者の場合の減免上限額は以下の通りです。

2024年度から中間所得層を対象とした「第4区分」が創設される

現行の修学支援新制度は、住民是非課税世帯など特に厳しい家庭を対象にした大学等無償化制度であることがわかりました。

対象となる家庭にとって修学支援新制度は大きな光となる一方、ギリギリで対象外の家庭にしてみれば残念で複雑な思いを持つ気持ちも理解できます。

そこでまず、2024年度にスタートする制度拡充では、中間所得層を対象とした「第4区分」が創設されます。

教育未来創造会議第一次提言(令和4年5月)・骨太の方針2022(令和4年6月)を受けた、安心してこどもを産み育てられるための奨学金制度の改正の一環です。

支援拡充の対象者は中間所得層

年収600万円の中間所得層世帯で、

  • 子どもが3人以上の多子世帯
  • 私立の理工農系の進学者

のいずれかに該当することが条件となります。

支援拡充の内容

該当する条件に応じてそれぞれの支援を受けられます。

  • 多子世帯の場合は、給付型奨学金および学費減免の1/4を支援
  • 私立理工農系の進学者の場合は、文系との差額を学費減免で支援

まとめると以下のような形で2024年度から支援が拡充されます。

2025年度からは所得制限無しで多子世帯への支援がさらに拡充される

2025年度からは、多子世帯に対する支援がさらに拡充される予定です。

2023年12月に閣議決定した「こども未来戦略」において、多子世帯の大学等の授業料等無償化が盛り込まれ、従来の制度に加えて2025年度から高等教育段階における更なる負担軽減が進んでいきます。

所得制限無しで子3人以上の多子世帯全員が対象に

こちらの制度拡充では、所得制限が無くすべての多子世帯が対象となります。

ただし、「子どもが3人以上”同時に”扶養されている」ことが条件です。

例えば、

  • 第1子が卒業後の就職を機にに扶養から外れてしまう場合
  • 第1子が扶養内でも、第2子が就職して扶養から外れた場合

などでも、いずれも支援対象外となってしまうため、注意が必要です。

授業料等減免を満額支援

こちらの制度拡充では、授業料等減免が満額支援されます。

入学金や授業料について、第1区分と同額の支援が受けられるのです。

今回の制度拡充に対するよくある質問や世間の反応

厚生労働省の国民生活基礎調査によると、3人以上児童がいる多子世帯は12.7%(2022年)に過ぎません。1992年には16.9%を占めていたので、30年間で多子世帯割合は4%減少したことになります。さらに児童 2人世帯の推移を見ると2022年(6.9%)、1992年(16.3%)と10%近くも減少しています。政府の狙いとしては、2人の子をもつ夫婦が3人目を生み育てやすくなる環境を整えたいということだと思いますが、批判や疑問の声が聞かれるのも事実です。

年齢制限は設けられるのか?

私が注目していたのが、第4区分の対象となる多子世帯の子どもの条件に年齢制限が設けられるのかという点でしたが、結果としては年齢制限がありません。

つまり、30歳の第1子でも扶養に入っていれば「子ども」にカウントされます。逆に3人兄弟の長男が在学中でも次男が高卒で就職し、扶養から外れると多子世帯の要件を満たさなくなります。

この点については不満の声が多いようで、私自身の保護者講演でも同様の反応が見られます。ただ、修学支援新制度の創設以来、国が高等教育の無償化に舵を切った意味は大きいと考えています。政府は家庭の教育費負担を最大 2名までに押さえるとの趣旨から、多子世帯支援に取り組み始めましたが、世論の輪が広がってくれば支援対象がさらに拡充される可能性があるのではないかと期待しています。

制度変更開始以前に在学中だった場合は対象になるのか?

もちろん、対象になります。

各種メディアの報道では、今年度からの第 4区分への支援拡充について 世帯年収“600万円 という数字がひとり歩きしているように感じますが、文部科学省の資料では世帯構成によっては年収630万円~740万円と示されています。したがって、多子世帯に該当するならダメもとでも申請する価値があると思います。

参考までに、2020年度に現行制度が開始された際や、同様の少子化対策である「幼児教育・保育の無償化」の場合も、導入時点で条件に該当する者は制度対象として認められました。

今3人目を出産して、18年後までこの対策は持つのか?

これももっともな意見ですが、ひとつ私のポジティブな妄想をあげてみましょう。

文部科学省の学校基本調査によると、2023年度の大学や短大、専門学校などの高等教育機関への進学率が84%と過去最高を更新しました。進学率は上昇していても肝心の子どもの数は年々減少を続けています。日本学生支援機構(JASSO)が提供する無利子の第一種奨学金の財源は、税金とその返還金。つまりは、今後は貸付額よりも回収額の方が大きくなる分岐点を迎えることがあると思います。同じ制度が18年後まで継続しているかどうかはわかりませんが、第一種奨学金の返還金を新たな支援に振り分けていくという考えがあっても良いのではないかと思っています。

貸与型奨学金の「減額返還制度」の変更点について

最後に、今回の制度拡充に関連して、日本学生支援機構(JASSO)の貸与型奨学金では、同奨学金受給者の月毎の返還額に関する「減額返還制度」に変更が加えられます。

従来の制度は、一回の返還月額を2分の1または3分の1に減額して返還することが可能でした。これに加えて2024年度からは、3分の2または4分の1までの減額を選択することも可能になり、返還方法の選択肢が広がりました。また、同制度を利用可能な年収の目安は、325万円以下から400万円以下に変更(緩和)されます。

ただし、あくまで返還が先送りになっているだけということをよく理解しておかなければなりません。

月々の返還金額が減少する分、返還期間が伸びていきます。適用期間は最長15年(180ヶ月)となっていますから、適用期間内に返済を完了できるかどうかも考慮する必要があるのです。

別の救済制度として返還期限猶予というものもありますが、返還期限猶予と減額返還の2分の1返還の利用者数は毎年ほぼ変化がない一方、3分の1返還の選択者が年々増加しています。これは若者の厳しい経済状況が背景にあると想像します。

返還期限猶予も減額返還制度も、最終的に返還が必要な金額が変わるわけではありません。それを見落として、足元の苦しい状況を脱するために4分の1返還の選択者が増えることを心配しています。貸与型奨学金は借金であることは事実です。在学中に貸与額を変更することができるので、借り過ぎていないかを冷静に考えるとともに、現在だけでなく将来の経済状況まで総合的に考慮して返済計画を立てていく必要があるわけです。

終わりに

今回は2024年度から2025年度にかけて制度拡充が行われる「高等教育の修学支援新制度(大学無償化)」について解説させていただきました。

多子世帯を中心に支援の対象が広がる一方で、利用時の注意点や対象外になる世帯・条件も多く存在し、今後さらに制度内容が変更されていく可能性もあります。批判の意見が少なくないのも事実ですが、皆さんが修学支援制度をよりよく理解し意見が生まれることで、さらなる支援拡充に繋がっていくと良いなと思います。

ご家庭の状況に合わせて、じっくり利用計画を検討してみてください。

※本記事の内容は2024年3月時点の取材内容に基づいています。最新の内容については文部科学省日本学生支援機構(JASSO)のホームページをご確認ください。

参考

ライター
久米 忠史(奨学金アドバイザー)

奨学金アドバイザー・久米忠史 (くめ ただし)

株式会社まなびシード 代表取締役 2005年頃から沖縄県の高校で始めた保護者・高校生向けの奨学金ガイダンスが「わかりやすい」との評判を呼び、現在では高校だけでなく全国各地で開催される進学相談会や大学のオープンキャンパスなどで毎年150回以上の講演を行う。2009年には進学費用対策ホームページ「奨学金なるほど!相談所」を開設。

【著書】
『奨学金完全活用ガイド2022』(合同出版/2022年)
『奨学金まるわかり読本2020』(合同出版/2020年)
『薬学生のための奨学金まるわかりガイドブック』※監修(ユニヴ/2018年)
『借りる?借りない?奨学金見極めガイド 最新版』(合同出版社/2018年)
『借りる?借りない?奨学金見極めガイド』(合同出版社/2015年)
『子どもを大学に行かせるお金の話』(主婦の友社/2012年)

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