奨学金の返済がきついときの対処法は?払わないとどうなる?
多くの学生が奨学金の返済で苦労することから、救済制度もあります。
本コラムでは、奨学金の返済がきついときの対処法や返済を怠るとどうなるのか、生活がきつくなってきたときに知っておくべき救済制度や相談窓口を紹介します。
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返済金額の平均は月約1万6000円。完済までに20年かかる可能性も
奨学金の返済はきついと言われる理由として「月々の返済金額が意外と多い」「完済するまでに何十年ベースでかかる」という要素が考えられます。
労働者福祉中央協議会の「奨学金や教育費負担に関するアンケート報告書」によると、奨学金で借りる総額は平均して310万円で、毎月の返済額は1.5〜6万円、完済まで15年ほどかかるとされています。
中には500万円以上借入するケースもあり、その場合は20年に渡って返済し続けることもあります。
奨学金を借りる学生の6割近くは利息が付く「有利子」で、さらに1箇所だけでは足りず複数の奨学金を借りるケースもあります。
借りたお金だから返済義務は理解できるものの、月に1万円以上を15〜20年近く返し続けなければならないのは、経済的にも精神的にも負担になるかもしれません。
実際のところ、同アンケート報告書では、返済状況の苦しさについて「苦しい」が44.5%、「かなり苦しい」と回答した方は20.8%という結果になりました。
多くの方が、奨学金返済に対して負担を感じていることが分かります。
【おさらい】返済が必要な奨学金とは?
ここで、奨学金についておさらいしておきましょう。
奨学金と聞くと、返済しなければならないというイメージが強いかもしれません。
実は、奨学金には返す必要がある「貸与型」と、返す必要のない「給付型」に分かれます。
給付型は、名前のとおり一定金額をもらえる奨学金制度で、基本的に返す必要はありません。ただし、審査基準が高めでいくつか条件がつけられています。
多くの場合、返済義務がある貸与型の奨学金を利用するので、ここでは貸与型奨学金について解説します。
最も利用者の多い日本学生支援機構の貸与型奨学金は、無利息の「貸与型第一種」、利息がつく「貸与型第二種」、入学時に一時的に増額できる「入学時特別増額貸与奨学金」に分類されます。
それぞれの採用条件と特徴は、以下のとおりです。
貸与奨学金の種類 | 採用条件 | 特徴 |
第一種奨学金 | 成績と家庭の収入状況をもとに審査される。採用基準は厳しめ。 | 無利子 |
第二種奨学金 | 家庭の収入状況のみで審査される。採用基準は比較的易しい。 | 有利子。日本学生支援機構の場合、利率の上限は3%。 |
入学時特別増額貸与奨学金 | 家庭の収入基準のみで審査される | 入学月に一時的に増額できる奨学金。有利子。 |
奨学金の申し込み方法として「予約採用」と「在学採用」があります。
予約採用は、高校3年生の段階で申し込み、在学採用は大学や短大に入学してから申し込みます。
現在は、入学前の予約採用が多くみられますが、実は予約採用と在学採用では申し込める際の基準が異なります。
日本学生支援機構の場合、予約採用では収入基準に関わらず一律です。しかし、在学採用になると通学環境や収入状況ごとに細かな基準が設けられています。
在学採用では、予約採用よりもハードルが低くなるといえます。
それぞれの具体的な条件については、こちらの記事で詳しく解説しています。参考にしてみてください。
奨学金の返済がつらいといわれる理由
奨学金を完済するまで10年以上、長いと20年近くまでかかることがあります。
それだけでも負担が想像できますが、実は奨学金の返済がきついと言われる理由には、ほかにもさまざまな要因が隠れています。
初任給が低い
多くの社会人が奨学金の返済に苦労する主な理由の一つに、初任給の低さが挙げられます。
独立行政法人日本学生支援機構の「令和2年度奨学金の返還者に関する属性調査結果」によれば、奨学金返済の延滞理由で最も多かったのは「本人の収入が低い」ことで約63%の割合で報告されています。
また、約41%の方は「返済額の増加」を延滞の理由として挙げています。
厚生労働省が発表した令和5年度の調査(※)によると、大卒の初任給は 212,500円とされています。たとえば、東京都で一人暮らしの生活費が約20万円かかるとすると、ここに奨学金の返済額約16,000円を引いた場合、厳しい家計管理が求められるでしょう。
奨学金の返済を怠ってしまうと、延滞金が発生します。さらに返済負担が増大するため注意が必要です。返済が困難な場合には、延滞金が発生する前に適切な対策をしなければなりません。
生活費も高騰している
奨学金の返済が厳しいと感じる理由は人それぞれですが、一人暮らしの生活費が大きな負担になっているケースは非常に多いです。特に都市部では家賃や光熱費、食費などの基本的な生活費が高騰しており、奨学金の返済額を捻出するのが難しい状況です。
収入は大きく上がらないのに出費ばかり増えていく…。このような状況が、奨学金返済の負担に拍車をかけているのかもしれません。
奨学金を返済しないとどうなる?
将来への投資につながる奨学金ですが、借りたお金には必ず返済義務があります。もし返済を怠ると、以下のような深刻な状況になりかねません。
延滞金が加算されてしまう
返済期日を過ぎてしまうと、延滞金が加算されるので注意が必要です。
延滞金は利息に対して加算され、月々の負担額が余計に増えてしまいます。延滞金の金利は奨学金の種類や団体によって異なるので、借りる予定のある団体の公式サイトを確認しておくといいでしょう。
ブラックリストに載り5年間は掲載されたままになる
奨学金の返済が長期間にわたって滞ると、信用情報機関にその情報が報告される場合があります。
これにより、信用情報に「ブラックリスト」として登録されることがあり、将来的にクレジットカードの発行、ローンの申請、場合によっては携帯電話契約などの金融サービスを利用する際に影響が出ることがあるかもしれません。
日本学生支援機構の場合、返済が3か月以上滞ると返還完了の5年後までブラックリストに掲載されてしまいます。
連帯保証人に迷惑がかかる
返済停滞のリスクは、本人にだけかかるわけではありません。
多くの奨学金には連帯保証人がついており、返済が滞ると連帯保証人に支払い義務が生じます。連帯保証人は、学生本人とは別の個人であり、返済できなければ財産が差し押さえられる場合もあるので注意しなければなりません。
放置すると訴訟や差し押さえに発展することがある
奨学金の返済を数ヶ月にわたって放置すると、訴訟や差し押さえになる可能性があります。
「奨学金の支払いが止まっただけで裁判?」と、驚くかもしれません。
奨学金は、借りたお金。返済義務ある奨学金は、返済しないで放置していると訴訟問題に発展します。強制執行が行われた場合、給与を含めた財産の差し押さえまで発展してしまいます。
奨学金の返済滞納は、決して他人事ではありません。
奨学金の返済がきつくて払えない場合はどうしたらいいの?
奨学金の支払いを怠った際のリスクはとても大きいです。支払いが実際にストップしてしまう前に「きつい!」「支払いが無理かもしれない!」と分かった段階から次のような手を打つようにしてみてください。
まずは身近な人に相談する
奨学金の返済が厳しくなってきた場合、 一人で抱え込まずにまず身近な人に相談することが大切です 。
相談相手として考えられるのは、家族もしくは身内です。
相談する際は、返済状況や現在の収入・支出、何がどう苦しくなっているのかを具体的に伝える と、より的確なアドバイスを受けられるかもしれません。
身内であれば、お金を貸してくれるケースもあるでしょう。もし立て替えてもらうことになったら、後に金銭トラブルにならないように借用書を作成することをおすすめします。
また、返済計画も忘れずに立てておくと相手も安心でしょう。
払えないと分かったら早めに運営元の機関や団体に相談しよう
奨学金の返済が難しいと感じた時点で、できるだけ早めに運営元や団体に相談してみてください。
奨学金の運営機関は、返済に困っている借り手を支援するための救済措置や新たな返済計画を用意していることが多いものです。
たとえば、返済額の減額、返済期間の延長、一時的な返済猶予など、個々の状況に応じた対策を提案してもらえるかもしれません。
できるだけ早期に相談することで、延滞が発生する前に対策を打てるようになり、信用が損なわれるのを回避できます。
支払えないときの救済措置に関しては、後半の章で詳しく解説するので最後までご覧くださいね。
支出を見直してみよう
支出の見直しも非常に重要です。
自分の財務状況を改善するには、まず収入と支出を把握し、不必要な支出をカットすることから始めてみましょう。
簡単に始められる項目としては、日々の食費、娯楽費、通信費を見直し、節約できる項目を見つけます。
また、月々の固定費も見直してみてください。一人暮らしの場合、支出の中でももっとも大きな割合を占めているのは住居費です。今よりも安いところに住居を変更するなど検討の余地があるでしょう。
これにより、奨学金返済に充てる金額を増やせるかもしれません。
日本学生支援機構の貸与型奨学金の救済制度
奨学金の支払いがきつくなってきたときは、滞納してしまう前に運営元に相談した方がいいでしょう。先ほど紹介したように、奨学金の運営元や機関は返済がきつくなってきた場合におけるさまざまな救済制度を設けています。
ここからは、日本学生支援機構における貸与型奨学金の救済制度を3つ紹介します。
減額返還制度
減額返還制度は、返済者の経済状況によって毎月の返還額を2分の1や3分の1、4分の1など負担額を減らせる制度です。
収入が低い場合や家族を養っている場合など、経済的に返済が困難と認められる状況のもとで適用されます。
ただ、誰でもこの制度を使えるわけではありません。年収の目安として、400万円以下である必要があり、養っている子どもの人数が2人の場合は年間収入金額が500万円以下、3人以上の場合は年間収入金額が600万円以下という基準があります。
ここで注意したいのが、返還金額が減ったわけではないという点です。
月々の負担が減るということは、完済はどんどん先送りになります。いずれにしても返し切らないといけないことは理解しておきましょう。
減額返還制度についてはこちらの記事もぜひ参考にしてみてください。
返還期限猶予制度
失業や病気など、特定の理由により収入が途絶えた場合に適用されるのが、返還期限猶予制度です。
期限猶予が認められると、一定期間に限り返済義務が猶予され、経済状況の回復を図れます。
経済状況が回復し返還できるようになれば、返済が再開されます。ただし、この制度に関しても減額返還制度と同様に完済年月が先送りになるだけで、返済自体が減ったわけではありません。
返還免除
返還免除は、特に厳しい経済的困難に直面している借り手に対して、奨学金の返済義務の一部または全部を免除する制度です。
この制度を利用する条件として、重度の障害を負ったり長期にわたる病気によって労働能力を失った場合、そして本人が死亡した場合に限ります。
精神・身体の障がによる返還免除を申請する際は、主治医による診断書を提出しなければなりません。
奨学金の返済が難しい場合は早めに相談しよう
いずれにしても、奨学金の返済は必要になります。
救済制度を利用するという手段はありますが、適切な申請と必要な書類の提出が求められます。
もし、返済がきつくなってきて経済的な困難が予想される場合は、早めに運営元や機関に相談し、早めの対処が必要です。
将来的に返済がきつくならないためにも、日々の収支管理を徹底してみてもいいかもしれませんね。