1. Home
  2. 夢中人—夢中に生きる大人からのヒント
高校生におすすめ!

「こいつのやってる仕事、簡単そうやな」それでいい、それがいい。─蓬莱 大介さん(気象予報士・防災士)【連載・夢中人 Vol.5】

更新日 2024.02.08
「こいつのやってる仕事、簡単そうやな」それでいい、それがいい。─蓬莱 大介さん(気象予報士・防災士)【連載・夢中人 Vol.5】
今回の「夢中人」は、関西を中心に活躍されている、気象予報士・防災士の蓬莱 大介(ほうらい・だいすけ)さんを特集します。
お天気キャスターとして『情報ライブ ミヤネ屋』『かんさい情報ネットten.』をはじめ数多くの番組に出演し、司会者との掛け合い、イラストスケッチのお天気解説など、独自のスタイルで天気を伝えることで人気を博し、講演や著書の執筆など、その活動は多岐にわたります。
蓬莱さんがこれまでに経験したターニングポイントや、気象予報士になるまでの道のりを伺いました。夢中に生きるヒントを一緒に見つけてみましょう。

⏱この記事は約7分で読めます

行けるところではなく、行きたいところへ。

兵庫県明石市の端にある、明石西高校に通ってたんですけど、そこから東京の大学に行く人は、当時は僕ぐらいでした。

自分の成績に合った、関西の大学に行くって人がほとんどやったんですけど、僕は自分の成績は度外視で、どうしても東京に行きたかった。子どもの頃から漠然と、物を作ったり表現をしたりする仕事をしたいと思っていて……。自分は何ができるのか、そもそも何がしたいのか?を知るために、全国から色んな人が集まって来る、なるべく有名な東京の大学に行こうと思って、一浪して早稲田大学に進学しました。

世界に飛び込むための「アホスイッチ」。自分の可能性を確かめるために

早稲田に入ってからは、興味があることはとりあえず一回やってみる!の精神であらゆることに挑戦しました。心の中の「アホスイッチ」を押すんです(笑)。キャンパスの中を有名人が歩いてたら声かけてみたり、講演会で手を挙げて発言してみたり……。

「うわ、俺こんな恥ずかしいことしてるやん!(笑)」って、どっか俯瞰してる自分もちゃんといるんですけど、挑戦するために敢えて「アホスイッチ」を押してましたね。
バンドを組んでミュージシャンを目指した時も、俳優になりたいと思ってオーディションに申し込んだ時もそう。「まさか自分が、」じゃなくて「もしかしたら自分が、」と思うために勢いが必要やったんです。

いきなり天職には出会えない。導いてくれたのは、挫折の経験。

正直言うと、ミュージシャンや俳優として、今日のようなインタビューを受けたかったなあ、と思う気持ちもありますよ(笑)。でも音楽とか演劇の経験が、気象予報士になった今、結果として役に立ってるんで、後悔はしてないです。

いきなり自分の天職に巡り会える人なんて、ほとんどいないと思うんですよ。バンド活動をしていた頃、自分より上手いヤツっていっぱいいるんやな、と思い知らされた。そこで「音楽以外の表現の道って、ないかな?」と考えて「そういえば、早稲田って演劇が有名やなあ」と気付いて飛び込みもしましたが、そこでも挫折を味わいました。それらを経て、ようやく気象予報士という仕事に出会えたんです。

引っ掛かるキーワードは?自分と対話し、見つけた答え

俳優の道を諦めて「さあ、どうしよう?」となった時、まず三日間、本屋さんに通いました。何かヒントがあるんじゃないかな、と思って。その頃から、考え事をする時は本屋さんに行って、並んでる本の表紙を眺めて「自分は今、どんなキーワードに引っ掛かるかな?」と自分に問いかけたりしてて。最初はやっぱりオーディション雑誌とかに目が行ってしまうんですけど、次の日から資格のコーナーを見るようになった。そこに、たまたま気象予報士の資格についての本があったんです。

「俳優は人に物語や気持ちを“伝える”仕事やけど、気象予報士も、天気を“伝える”仕事かもしれへんなあ」なんて考えてたら、ふと、小学生の頃、唯一担任の先生が褒めてくれた時の記憶が蘇ってきて……。

生き物係をやってた僕に「蓬莱君は、勉強できへんけど、生き物のこと伝えるのは得意なんやね」って当時の先生が言ってくれたんです。「自然のことを伝える仕事やったら、人の役に立てるかも……」と思いました。それまでの夢は自分がやりたいかどうかだけやったけど、初めて人の役に立つ、ってことを考えましたね。
これが、気象予報士という仕事との出会いでした。

ノートを書く“司令塔”の自分と、「アホスイッチ」を押して“行動する”自分。

理系ではなく、大学を卒業してしばらく経っていたこともあり、気象予報士の勉強は、小学生向けの「漫画でわかる天気予報」みたいな、すごく基礎的な本を読むところから始めました。そして、気象予報士の試験の日をカレンダーに書き込んで、試験に受かるためには今月これを達成する、そのためには今週これを達成する、そのためには今日……と、細かい目標をノートに書いていきました。

実際の当時のノート。取材のためにお持ち頂きました。

この「ノートに書く」っていうのはミュージシャンや俳優を目指していた時から続けていて、実はいまもやってるんです。書くことによって、頭の中が整理されるんですよ。自分が今、何を考えていて、何をやるべきか、何をやらなあかんのか……。ノートを書く“司令塔”の自分と、「アホスイッチ」を押して“行動する”自分っていうが居るんですよね。

「お天気お兄さん」を目指して、分析をして行動

気象予報士の試験には合格しました。次は、どうやったら天気のことを伝えるキャスターになれるのか?という壁にぶつかりました。そこで、今お天気キャスターとして活躍しているのはどんな人なのかをノートに書き出してみると、「お天気おじさん」「お天気お姉さん」はいるけど「お天気お兄さん」はいないな、と気付いて。「よし、お天気お兄さんを目指そう!」と。

ターゲットは主婦層、必要なのは清潔さ、爽やかさ…、そのイメージから氷川きよしさんとNHKの歌のおにいさんについてを分析していきました。その結果、普段着を全てポロシャツにピンクのベスト、ネクタイ、革靴という「お天気お兄さん」らしい格好に一新しました。それまでは古着とかロックな感じの服を着てたんですけどね。

一日一回、必ず続けたこと。いつか来るチャンスを逃さないために

で、その服装でテレビ業界の人に会うと「あれ?なんかコイツ仕上がっとるなあ!」と思われるわけです(笑)。その見た目で「これからは、お天気お兄さんの時代です!」ってプレゼンすると、なるほどね、と思ってくれる。でも、男性がお天気キャスターになるには10年は会社で修行を積まないと、と言われました。それだと、結局お天気おじさんになってまうやん、と。

当時、ウェザーニューズ※1 で、放送用の原稿を書くアルバイトをしていたんですが、そこで毎日天気予報の練習をして、動画に撮ることをはじめたんです。バイトがある日もデートの日も、必ず一日一回は動画を撮って、プロデューサーやディレクターに見せてアドバイスをもらう。それを1年ほど続けていたら、大阪の読売テレビから「今、うちでキャスターをやっている方が高齢で代替わりするから、やってみない?」と声をかけてくださって。
報道局で天気予報のスタッフとして勤務しながら、先代キャスターの小谷さん※2 から様々なことを伝授してもらい、2011年3月にお天気キャスターとしてデビューし、「お天気お兄さん」になることができました。

※1 千葉市美浜区に本社を置く、民間の気象情報会社。BSデジタル放送、ケーブルテレビ、アプリ等で気象情報「ウェザーニュース」を提供している。https://weathernews.jp/

※2 小谷 純久(こたに・よしひさ)さん。1948年生まれ、京都府出身の気象予報士。2011年3月に22年間務めた読売テレビの夕方ニュース番組のお天気キャスターを勇退、蓬莱さんがバトンを引き継いだ。

ストレートではなく、変化球。近所の兄ちゃんのように

キャスターの中には天気のことにめちゃくちゃ詳しい人たちがたくさんいます。ですが、僕は彼らと真っ向勝負する気はなくて。天気予報で「洗濯指数」は見るけど、他にもないかな?と考えて、例えば今の時期だったら「鍋指数」を入れてみたり(笑)。宮根さん※との掛け合いで漫才みたいに天気のことを話してみたり、イラストを描いて天気の説明をしてみたり。固い言葉で伝えるよりも、休み時間にフラッと来た兄ちゃんが「お疲れー、明日の天気やけどなー、傘持っといた方がええで!」って言う方が伝わるんじゃないかなって。こういうところに、俳優とかミュージシャンをやってた経験が生かされてるんでしょうね。

※ 宮根 誠司(みやね・せいじ)さん。フリーアナウンサー。1963年生まれ、島根県出身。もと朝日放送アナウンサー。読売テレビ制作、日本テレビ系『情報ライブ ミヤネ屋』総合司会を務める。

僕、「この人、すごいな」と思われるのは嫌で「こいつのやってる仕事、簡単そうやな」って思われたいんです。僕がテレビで言ったことを、視聴者さんが周りの人に伝えられるようなものにしたいから。番組を見てくれた子どもたちが、僕の真似をして天気予報をしてくれてる動画が時々送られてくるんですけど、それを見ると「ああ、伝わってるなあ」って嬉しくなりますね。

プロフィール

蓬莱 大介(ほうらい・だいすけ)
1982年生まれ、兵庫県明石市出身。早稲田大学政治経済学部卒業。バンド、演劇、タレント等の活動を経て、2009年の第32回気象予報士試験に合格。直後に防災士の資格も取得。2011年から読売テレビ(ytv)の番組でお天気キャスターを務める。現在、『情報ライブ ミヤネ屋』『かんさい情報ネットten.』『ウェークアップ』のお天気コーナーを担当。関西エリアを中心に、講演や防災イベントへの出演などでも活躍。
著書として、エッセイ集『空がおしえてくれること』(2019年、幻冬舎)、絵本『そらのどうぶつえん』(2023年、コミニケ出版)など。

スケッチ予報(『かんさい情報ネットten.』サイト内) https://www.ytv.co.jp/ten/forecast/
公式Instagram https://www.instagram.com/daisukehourai/
オフィシャルサイト http://hourais-office.co.jp/

(撮影・白浜哲/取材・西泰宏/文・大池容子/編集・Totty/取材協力・株式会社ytv Nextry)

ライター
ドーミーラボ編集部

「夢中になれる学生生活」を探求するウエブマガジンです。進学や進路のあり方、充実した学生生活をおくるために実践できる知恵やヒントを発信していきます。