「親が頑張りすぎると、子どもは頑張れない?」—日野田直彦さんに聞く、これからの時代に必要な親のサポート【特別インタビュー】

子どもの未来をどう応援すべきか? ドーミーラボでは、2018年のインタビューに続き、今回は受験期に直面する親の悩みやサポートの在り方について伺いました。
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2018年のインタビュー:人生の舵は自分で握ろう。|武蔵野大学中学校・高等学校校長 日野田直彦さん
親が頑張りすぎると子供は頑張らない。
いきなり語弊があるかもしれませんが、「子どもを優秀に育てられているかどうか」を自分自身の評価とする親御さんが多いように思います。親御さん自身の思いや、世間体を気にして頑張ってしまう。

そこで、いつも学校の保護者さんに、「子どもは十人くらいいるうちの一人だ、くらいに思ってください。親がある程度適当な方が、生徒本人が頑張れます」って伝えてきました。お母ちゃん、お父ちゃんが頑張りすぎると、逆に子どもは頑張りませんよ、とね。
生活の保証はしっかりするけど、進路や勉強は本人に任せる。「困ったことがあったら相談に乗る。でも、あとは自分で頑張れよ」ってスタンスでいいと思うんです。親が一歩引くくらいが、案外うまくいくものです。
保護者が「主人公」になっていないか?
学校の先生や親御さんが、子どもの勉強や進路選びなど 受験の「主人公」になってしまうことがあります。でも、僕ら大人は黒子でいいんです。演劇で黒子が舞台の真ん中に立っていたら、おかしいでしょう?

これからの時代を生きていくのは彼らです。これから僕ら大人が「イノベーションを起こす!」なんてしんどいじゃないですか(笑)。だから、僕らは子どもたちが新しいことに挑戦するのを応援してあげましょう。
時にはリスクを顧みない、わかってないこともあるので、「やっちゃった」ってこともあるとは思います。けど僕らもそうだったじゃないですか?
そのあたりも含めて、彼らがやりたいことを支えられる親や先生に、我々はなれたらいいと思います。
ネームバリューやブランドで、就職先は選ばない方がいい。
もう一つ、ネームバリューやブランドにこだわる風潮ってありますよね。たとえば「どこの学校に行ったの?」「どこの会社に就職したの?」って。大学も企業も、有名だからという理由で選んじゃう。

でも、ブランドだけで就職先を選んだら、えらい目に遭うかもしれないって、本当は僕らの経験からわかると思うんです。過去を振り返ると、90年代に頂点にあった日本企業がどうなったか、よく知ってますよね。倒産したり、外資に吸収されたり。あるいは売られたりで、ほとんど消えてなくなりました。
それでも、今の子たちも「どこに行きたいか」と問われたら、とりあえず有名なメーカーやコンサルなどの名前を挙げることが多いんです。けど、30年後どうなってるかなんて、結局わからないんですよ。優秀だった子が、就職したら大変な目にあった、というのもよくある話。だから大人が教えてあげないと。
親としての役目はここにあると思うんです。子どもが大人としてピークを迎える20年後、30年後に幸せでいられるかを考えてあげること。本人が成長し、一人前になっていくように、今は大きくなくても「これから伸びる会社」や、社員に色々なことをチャレンジさせてくれる「成長できる環境」を一緒に探して、背中を押してあげることも、一つかもしれません。
親こそ視野を広げよう。
僕がよく親御さんに言うのは、「タイなんて近所ですよ」という話です。
東京から大阪までの夜行バスが9時間。一方、東京からバンコクまでの飛行機は7時間。時間的にはむしろ近いくらいなんですよ。それこそ東京から大阪に行くのも、サンフランシスコに行くのも、かかる時間は同じなんです。値段の面でも、LCCなら成田からバンコクまで2万円そこそこで行けたりします。深夜便を使えば、さらに時間も有効に使えます。
実はこれ、皆さんの経験上の認識の問題なんです。

だから親御さんによく言うんです。「お父さん、お母さん、一回遊びに行きなはれ。それだけで、世界がぐっと近く感じられるはずです」と。子どもと一緒でもいいし、親だけでもいいんです。2~3日くらい、親が家を空けたってどうってことないですよ。
結局、自分の経験の幅以上のことを考えるのは難しいし、語れないんです。親自身、色々な経験をしていたり、色々な場所に行ったことが多いほど、 視野を広く持つことができるんです。視野を広げるのは、今からでも全然遅くはないと思いますよ。
親御さん自身も、ぜひ見たことのない世界に行ってみましょう。

プロフィール
日野田直彦(ひのだ・なおひこ)
1977年大阪府生まれ、幼少期をタイで過ごし、帰国後は同志社国際高等学校で帰国子女として当時の最先端の教育を受ける。大学卒業後は、進学塾、私立中高の新規立ち上げ、公立・私立の校長などを経験。36歳で校長になった大阪府立箕面高等学校では、地域で4番手の普通の高校の生徒が海外の大学に多数進学し、注目を集めた。また、武蔵野大学中学校・高等学校を定員割れで倒産寸前の状態から、学校説明会に毎年のべ1万人以上の親子が参加する学校へと改革した。2022年には、募集を停止していた千代田高等学院の中学校を、千代田国際中学校として再開し、学校再建のロールモデルの構築に取り組んできた。