【対談】岡田悠×ドーミーラボ 「思い出は“擦る”ほどに味が出る」―『駅から徒歩138億年』と、20年経っても終わらない僕らの修学旅行

文筆家・岡田悠さんが、かつて大学時代に過ごした「ドーミー立川」に、当時の友人たちとともに15年ぶりに宿泊した、2024年1月13日。当時と変わらない館内、変わらない雰囲気、そして変わらない匂い。その強烈な体験は、2025年10月16日に発売された著書『駅から徒歩138億年』でも鮮烈に綴られています。
あれから約2年。同書を出版されたばかりの岡田さんと、この宿泊企画を担当し、文中にも登場するドーミーラボ編集長・戸谷が再会。大人になった今だからこそ語れる「思い出を擦(こす)り続ける」贅沢と、「終わらない修学旅行」の正体とは?
これからドーミーでの新生活を始めるあなたへ。20年先まで続く「終わらない修学旅行」の楽しみ方を、ここにお届けします。
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書籍化された「ドーミーへの帰還」

──前回の「ウェルカムバック」企画から、気づけばもう2年近くが経ちましたね。
戸谷:あっという間ですね。あの時は、岡田さんに「ドーミー立川」へ久しぶりに「ウェルカムバック」していただいて。その節は本当にありがとうございました。
岡田:こちらこそ、ありがとうございました。実はこの間、当時の寮生メンバー4人で集まって飲んだんですよ。東京出張のタイミングに合わせて大体集まるんですけど、「いやぁ、あの企画は楽しかったね」って話題になりました。
戸谷:それは嬉しいですね! 私たちとしても、あそこまで喜んでいただけるとは思っていなくて。改めて、あの体験を振り返っていかがですか?
岡田:いや、すごかったですね。何がすごいって、内装が全く変わっていなかったこと(笑)。壁紙まで当時と一緒だったんですよ。
戸谷:そうなんですよね(笑)。近隣にある「ドーミー立川北」なんかはリニューアルを行っていて、今風のきれいなラウンジができたり、仕様が変わっていたりするんです。でも、岡田さんがいらした「ドーミー立川」は、奇跡的に当時と大きく変わっていないままで。
岡田:逆にそれが良かったんですよ。「さすがに10年以上経ってるし、少しは変わっているだろう」と予想して行ったら、そのまますぎてびっくりした。「そのまんまじゃん!」って(笑)。当時を再現しようと意気込んでゲームを持ち込んだんですが、部屋にテレビがなくて急遽ビッグカメラを買いに行ったときも「そういえば当時もテレビはなかったな」とか、ちょっとした当時の記憶が一気に蘇ってきて。その後の飲み会でも「あの頃本当にお金なかったよね」なんて話で盛り上がりました。
深夜のトイレで起きた「15年前へのタイムスリップ」
──『駅から徒歩138億年』の中でも、その時の体験が綴られていましたね。「感覚がふっと戻った瞬間があった」と。
岡田:そうですね。一番強烈だったのが、深夜にトイレに行った時です。部屋でゲームをしていて、ふとトイレに立った。そのトイレのスリッパが、当時と同じ「黒いスリッパ」のままだったんです。用を足して、廊下を歩いて、また自分の部屋に戻ってドアを開ける。その一連の身体動作って、住んでいた頃に何千回と繰り返した動きなんですよね。
戸谷:身体が覚えているんですね。
岡田:そうです。ドアの重さも、開ける時の感触も当時のままだから、その瞬間、現在と過去が完全にシンクロしてしまって。「あれ? 今っていつだっけ?」って。ほんの1秒か2秒の間なんですけど、本気でわからなくなった。まるでタイムスリップしたような、すごく幻想的な体験でしたね。
戸谷:運営側の我々からすると、「ドーミー立川」のような昔ながらのベーシックなタイプは、昨今の新築のドーミーなどと比べてしまうと、どうしても少し見劣りするかもしれません。でも、そこには岡田さんたちのような歴代の寮生が過ごしたリアルな生活の痕跡、いわば「時間の背中」みたいなものが刻まれている。今回、岡田さんがそうやって過去と接続する空間としてドーミーを感じてくださったことは、我々にとっても「提供しているものの価値」を再発見するきっかけになりました。
岡田:食堂も良かったですね。あのテーブルや椅子、ごはんの匂いも全て一緒でした。それに自分でご飯をよそって食べた時、「普通にめしがうまい」って再確認しました。
当時は当たり前だと思ってたけど、広いお風呂があって、ご飯が出てきて……あれは贅沢な生活だったんだなと、大人になって改めて思いましたね。
アナログな「おもてなし」が解像度を上げる

──今回の再訪で、特に印象に残っているドーミー側の対応はありましたか?
岡田:下駄箱に僕の名前が入っていたことですね。あれは感動しました。さすが「おもてなしの会社」だなと。
戸谷:実はあれ、現地の寮長が自発的にやってくれたことなんです。もちろん当時の寮長ではないですが、「岡田さんが帰ってくるなら」と、テプラ(ラベルライター)で。
岡田:そう、フォントが当時と完全に一緒だったんですよ!(笑) あのカクカクした文字を見た瞬間に、記憶の解像度がブワッと上がりました。「うわ、これだ!」って。
館内にあるコピー機や自販機も懐かしかったです。自販機でジュースを買うという些細な行為すら、当時は生活の一部だったんだなと思い出しました。
戸谷:今はDomico(入居者アプリ)でいろいろ便利になったり、デジタル化も進んでいますけど、そういう現場のアナログな温かさも大切にしているのが、ドーミーらしさなのかもしれません。結果的にその「変わらなさ」や「ぬくもり」が、岡田さんの記憶を呼び覚ますトリガーになったのなら嬉しいですね。
思い出のマトリョーシカと、枕の新事実

──大人になると、久しぶりに友人と会っても仕事や将来の話になりがちですが、岡田さんたちの集まりはどんな雰囲気なんですか?
岡田:若い頃は、「昔は良かったなぁ」なんて過去の話ばかりするおじさんにはなりたくないと思ってたんですよ。でも実際にその年齢になってみて、「全然いいじゃん」って思えるようになりました。寮の仲間と会うと、仕事の話とか、将来の建設的な話なんて一切しないんです。「最近どう?」なんて近況報告もそこそこに、気づけばずっと15年前の話をしてる。
戸谷:建設的な話はゼロですか(笑)。
岡田:ゼロですね(笑)。でも、それが最高に楽しいんです。
1年に1〜2回会うんですけど、毎回一瞬で当時の空気に戻れる。お互いの引き出しを見せ合って、同じ話を何回も何回もする。僕はこれを「思い出を擦(こす)る」と呼んでいるんですけど、擦れば擦るほど味が出るんですよ。
──20年近く経っても、まだ新しい発見があるそうですね。
岡田:そうなんです。この前も新事実が明らかになりまして。本にも書いたんですが、当時、ある友人がめちゃくちゃ寝心地の良い枕を持っていて、みんなでその枕を奪い合ってたんですよ。「お前の枕、最高だな」って。
で、最近になって「あの伝説の枕、どこで買ったの?」って聞いたら、そいつが「あれ、実家の手作りなんだよね」って言い出して。
戸谷:ええっ、手作り!?(笑)
岡田:「お前の家、枕を手作りする伝統があったの!?」って、20年越しに大盛り上がりですよ(笑)。「じゃあ今度、みんなで材料を持ち寄ってその枕を作ろうぜ」みたいな話になってるんですけど。そういう「当時は知らなかった新事実」が、今になってもポロポロ出てくる。
そうやって過去の思い出に新しい情報が上書きされて、層が厚くなっていく。まるで「思い出のマトリョーシカ」みたいに、一生楽しめるコンテンツなんですよね。
戸谷:「思い出のマトリョーシカ」、素敵な表現ですね。部活に青春を捧げたような熱い日々とはまた違うけれど、同じ屋根の下で、それぞれの「素」の時間を共有していたからこそ、20年経ってもこうやって笑い合える。そこにドーミーという場所が関われていることは、本当にかけがえのないことだと思います。
ドーミーでの日々は「終わらない修学旅行」

──あらためて、ドーミーでの日々は岡田さんにとってどのような「時間」でしたか?
岡田:記事を書くときも、最初は「面白いネタ」としてドーミーの話を書こうとしたんですけど、やっぱり最後はどうしても「時間」の話になるんですよね。僕らにとってドーミーでの生活は、「終わらない修学旅行の夜」みたいなものだったんです。修学旅行の夜って、先生に見つからないようにこっそり喋ったり、くだらない話で盛り上がったりするじゃないですか。あのワクワクする時間が、寮だと毎日続くんです。
戸谷:確かにいまドーミーに住まれている寮生さんに話を聞いても、「毎日が修学旅行みたい」という言葉はよく出てきますね。
岡田:そういう夜をたくさん過ごせたことは、人生においてものすごい財産になっています。
何者でもない時期に、損得勘定抜きで、ただ一緒に時間を浪費した仲間。そういう存在がいくつかあれば、これからの人生もまあ大丈夫だろう、生きていけるだろうって思えるんです。
──これからドーミーに入寮する学生さんや、今住んでいる方へアドバイスがあればお願いします。
岡田:やっぱり「最初の友達作り」ですね。ここだけはぜひ積極的にいってもらいたいです。大学のサークルやクラスの友達は後からでも作れますけど、寮の人間関係は最初が肝心です。みんなまだ知り合いがいない、「よーいドン」の状態が一番友達を作りやすい。
僕の友人で、大学の新歓イベントばかり行っていて、ドーミーではあまり馴染めなかったやつがいたんですけど、後から僕らが楽しそうにしているのを見て「ドーミー楽しそうだな、失敗したな」って羨ましがってましたから(笑)。
戸谷:最初に輪に入れば、あとは20年経っても「味がする」関係になれますからね。
岡田:そうです。だから、最初はちょっと勇気を出して、ラウンジに行ってみたり、食堂で声をかけてみたりしてほしい。そうやって手に入れた「終わらない修学旅行の夜」は、大人になってからもずっと、皆さんを温めてくれるはずですから。

(取材:西泰宏/撮影:黒田敬太)
【プロフィール】

岡田 悠(おかだ・ゆう)
1988年、兵庫県生まれ。大学進学を機に上京し、学生寮「ドーミー立川」に入寮。学生時代はバックパッカーとして世界各地を旅する。大学卒業後は外資系投資銀行およびfreee株式会社にてプロダクトマネージャーを務める一方、兼業ライターとしても活動。現在は文筆家。著書に『0メートルの旅』『10年間飲みかけの午後の紅茶に別れを告げたい』がある。2025年10月、約5年ぶりとなる新刊『駅から徒歩138億年』を上梓。note、ポッドキャスト、著作など多岐にわたるメディアで幅広く活躍している。
note: https://note.com/hyosasa

戸谷 和宏(とたに・かずひろ)
株式会社共立メンテナンス レジデンス市場開発部 副部長
本サイト「ドーミーラボ」編集長、住まいアドバイザー。
1987年、大阪府生まれ。2010年、株式会社共立メンテナンス入社。2024年より現職。福岡、東京での学生寮営業スタッフを経て、学生会館ドーミーおよび関連webサイトの運営・企画を統括、およびドーミー入居者向けアプリ「Domico」を考案し、プロデューサーとしてシステム開発とカスタマーサポートに携わる。住まいアドバイザーとして、全国の受験生・保護者向けの講演やオンライン相談・説明会でも活躍。
【書籍情報】『駅から徒歩138億年』

著者:岡田 悠
発売日:2025年10月16日
出版社: 産業編集センター
「ここではないどこか」へ行くために、僕らは旅に出る。 Webで大反響を呼んだ「ドーミーへの帰還」エピソードを含む、時間と場所をめぐる日常旅エッセイ。
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