【夢中人】「人生は『泥縄』や。とりあえず引っ張れ!」先が見えない時代こそ面白く。―高木 秀章さん(塾長・学習塾経営)

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「お前は勉強に向いてへん」 挫折から始まった塾人生
正直に言いますけど、僕は勉強ができるタイプじゃなかったんです(笑)。 大学受験も滑り止め以外全部落ちて、一浪して、二浪目しようと考えていた時、親父に呼び出されました。
「お前、大学入試向いてへんわ。社会に出たほうが伸びる。今日から塾を手伝え」
うちの親父は高校の教員だったんですが、副業でそろばん塾をやっていて、それを大学生の兄貴が手伝って学習塾にしていました。 「どうせお前も俺の子やから、同じ運命や」と言われて、半ば強制的に大学時代に塾の先生になった。これが僕の始まりです。
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だから僕、就職活動もしたことがなければ、他社で働いた経験もないんです。 「上司」という存在を持ったことがないまま、いきなり現場に放り込まれました。
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当時は地域名から「今福教場」という名前でしたが、看板の文字が消えかけて「牧場」に見えるとか言われて(笑)。これじゃあかんと、家族会議で新しい名前を決めることに。最終的に親父の独断で決まったのが、現在の「開智総合学院」です。
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兄の死、そして生徒募集の危機。絶望の中で掴んだ突破口。
親父から経営を引き継ぎ、兄貴と二人三脚で始めて5年ほど経ち、少しずつ軌道に乗り始めた矢先のことでした。、兄貴がくも膜下出血で急逝したんです。
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残されたのは、新築したばかりの住宅ローンと、塾の経営でした。兄貴の葬儀には生徒や保護者さんを中心に600人もの方が来てくれて、生徒や保護者の皆さんにも支えられ、何とかその年の受験生を送り出すことができましたが、翌年には近隣に大手の学習塾が進出してきました。 「もうあかんかもしれん」。そう思った時、本屋でふと手にしたのが、神田昌典さんのマーケティングの本でした。
「これや!」と思いましたね。 見よう見まねで、徹夜で入塾募集のダイレクトメール(DM)を書き上げました。それを読んだ嫁さんが「パパ、こんな文才あったん?」と驚くほど(笑)。 そのDMを配ったら、電話が鳴り止まなくなったんです。数人しか居なかった中学1年生のクラスがあっという間に満席になった。 「商売って、やり方次第でこんなに変わるんや」と、雷に打たれたような経験でした。
成績アップは「スポーツ」や! 熱狂を生む仕組み
僕にとって、経営や仕事は「解きごたえのある問題集」みたいなもんです。 どうやったら生徒の成績が上がるか、どうやったら社員がワクワクするか。それを考えるのが面白くて仕方がない。
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うちの塾では、各クラスの「平均点格差」という指標を全員に公開しています。 自分の担当クラスの生徒が、学校の定期テストの平均点より何点上回ったか。これを社員もアルバイトも関係なく、バーンと出すんです。
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これ、ノルマとしてやらせているわけじゃないんです。みんな「スポーツ」や「ゲーム」の感覚で楽しんでるんですよ。 「今回の俺の打率、すごくないっすか?」「あいつ、新人やのにホームランバッターやな!」って。 アルバイトの学生も「社員には負けへん!」って燃えて、勝手に土曜日に補習を入れたりする(笑)。僕自身も「現場は任せたい」なんて言うと、「逃げるんですか? 先生入ったほうが盛り上がるんで!」と彼らに引き戻されて。結局いままで引き続き教壇に立って、一緒に競い合ってます。
「泥縄」を引っ張り続けろ。
よく社員に言うんです。「人生は泥縄や」って。 泥の中に縄が埋まっていて、先は見えない。でも、「とりあえず引っ張ってみろ」と。 ズルズル引っ張っていくと、何かに当たる。ヒントが出てくる。その縄が切れたことは、僕の経験上、一度もありません。
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最近は、社員たちが主体となって事業を回すようになりました。異業種から入社してくれた社員が新たな地域でのフランチャイズ戦略を立てたり、地元の主婦パートさんが天才的なマーケティング視点で意見をくれたり。 みんなでガヤガヤ言いながら、新しいことに挑戦して、失敗して、また修正して。
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社長業をやっていると「お金ができたら遊びに行く」人も多いですが、僕は全然興味がないんです。 だって、仕事のほうがよっぽど面白いから。 人が育ち、組織が変わり、子供たちの成績が上がっていく。こんなにスリリングで感動的なエンターテインメントは、他にないですよ。これからも、泥縄を面白がって引っ張り続けようと思います。その先に何が出てくるか、楽しみで仕方がないですね。
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【CHECK】開智総合学院
大阪市城東区・鶴見区を中心に展開する総合学習塾。そろばん塾から始まり、学習塾、幼児教育、英語教室、予備校、学童保育と分野を広げ、2025年現在、12の教室に塾生数は2000人以上。生徒の成績向上だけでなく、人間的な成長(非認知能力)の育成にも力を入れている。「なぜ頑張らないといけないのか」「嘘をついたらダメだよ」といった、人として大切なことを伝える「意義づけ」の時間こそが、教育の本質だと信じているからだ。
(2025年10月 取材協力:開智総合学院 取材:戸谷 和宏、西 泰宏/カメラ:白浜 哲/文:西 泰宏)
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