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高校生におすすめ!

直感を信じて進んできたら、好きなことと仕事が繋がった。─ 佐々木 薫子さん(飲食店経営)【連載・夢中人 Vol.8】

直感を信じて進んできたら、好きなことと仕事が繋がった。─ 佐々木 薫子さん(飲食店経営)【連載・夢中人 Vol.8】
今回の「夢中人」は、東京・麻布十番で「薬膳カレー 薫」を経営する、佐々木薫子さんです。入退院を繰り返す生活を送った学生時代の体験から食の大切さを実感したという佐々木さん。「証券会社の営業や家族経営の会社、外資系企業の人事など、さまざまなキャリアを経験してきました。就職も結婚も飲食店の経営も、すべて直感で決めてきました」と話す佐々木さんに、薬膳カレーのお店を開くまでのエピソードや、夢中になれるものの探し方についてお話を伺いました。

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「あなたはあなただから特別」

私は子どもの頃、3歳から6歳までアメリカのヒューストンに住んでいました。今とは違って引っ込み思案な性格で、ちょっと変わった子どもだったと思います。周りとかみ合わないこともよくありました。でも、そこで出会った先生から言われた「You are very special. Because you are you(あなたはあなたなんだから特別なんだよ)」という言葉で、「人と違う」ことをポジティブに受け入れられるようになったんです。スヌーピーが出てくる「ピーナッツ」という漫画の作者が言った言葉なのですが、当時幼かった私にはすごく印象的で、今でもしっかり自分の中に根付いています。

本人提供

「食」の大切さを実感した大学時代

大学は、青山学院大学のフランス文学科に進学しました。フランス語を選んだ理由は、英語教師で英語教育に熱心な母に反抗したかったという単純な発想です。ところが、入学してすぐに大きな病気が見つかり、入退院を繰り返すような学生生活を送りました。今思えば、この時に食べたくても食べられないという経験をしたことで、「食」への関心が人一倍強くなったのかもしれません。悲しいことがあってもおなかはすくし、美味しいものを食べれば幸せな気持ちにもなりますよね。生きる希望といってもいいぐらい、食事って大事なものだと思うようになったんです。薬膳を選んだのも、この影響かもしれません。

飲食店経営への転身

大学卒業後は証券会社で営業として4年半勤務しました。お客様から怒られたことばかり覚えています。ただ、会社の雰囲気が良かったですし、さまざまなお客様とコミュニケーションをとれたことが貴重な経験でした。

それから結婚を機に証券会社を辞め、仙台で主人の家業である印刷会社を手伝うことにしました。主人は、東京のOLから地方の会社の若女将(おかみ)になるなんて大丈夫かなと心配していたみたいですが、私自身は面白そうだなと思っていました。営業の経験も活かしつつ、主人が発案したオリジナル商品を大学に売り込んだり、ポップアップストアを出したり、思い付くことを楽しみながらどんどんやっていました。4年ぐらい続けたのですが、2人とも体調を崩してしまったこともあり、家業を閉じることにし、その後は外資系企業の人事部門で働きました。

社員のメンタルヘルスに関する仕事で、未経験の職種ながら家族経営の経験を活かせると思ったからです。仕事の内容自体は面白かったんですが、自分の核である「働いている人に元気になってほしい」という気持ちを実現できるか悩むようになりました。そうしてお店づくりにチャレンジしてみたいと思ったんです。直感でしたね。

コロナ禍の真っ只中に踏み出した飲食店経営

2022年9月、「麻布十番薬膳カレー 薫」をオープンしました。現在は週3回、木曜から土曜のランチタイムに営業しています。近隣にお住まいのお客様が多いですが、遠い方では九州などから来てくださる方もいらっしゃいます。この辺りは大使館も多く、国際色豊かな一方で昔ながらの情緒も残り、住みやすい街だなと思っていました。以前から、この街で人とコミュニケーションを取れる仕事がしたいな、と漠然と考えていたんです。それまで私は、証券会社の営業や主人の家業、外資系企業の人事など、一見業界も職種もバラバラの仕事をしていましたが、共通するのが「人とのつながり」です。

麻布十番で、人と交流が持てる仕事といったら何だろうと考えたときに、漠然と思ったのが飲食店でした。料理を作って振る舞うのが好きで、仙台にいた頃も、お客様が来たときにオリジナルのおつまみなどを作って出したりしていたんです。当時はコロナ禍の真っ只中で、飲食店を経営するのは厳しい時期でしたが、偶然この物件を見つけて、「これはチャンスかもしれない!」と思って決めました。

薬膳カレーを選んだ理由

でも当初は薬膳カレーのお店ではありませんでした。実は私、将棋が趣味でした。仕事の息抜きで始めて、今ではアマチュア初段も持っています。だから、お店を始めようと思ったときも、最初は将棋バーをやりたいと考えていました。ところが、いろいろ調べてみると、麻布十番で将棋バーだけで経営するのは難しそうだと分かったんです。そこで将棋バーをやりつつ、軽食も提供したいなと考えていたら薬膳カレーに行きつきました。私自身、カレー屋さん巡りをしたり、友達を呼んでカレーパーティーを開いたりするのが好きだったのも理由の1つです。国民食といわれるほど誰からも愛されているカレーと薬膳を組み合わせれば、多くの人が気軽に薬膳を楽しんでもらえると思ったんです。

みんなのサードプレイスになる場所を作りたい。

お店を始めてから、人とのつながりをとても意識するようになりました。昔の友人が来店してくれることもありますし、麻布十番の人とのつながりも深められました。会社勤めでは得られないつながりだと思います。

子どもの頃は人見知りだった私が、今こうしてお店をやっているって、我ながらいまだに不思議です。でもこのお店を始めて、私は人に元気になってもらえる仕事をしたかったんだ、ということを改めて実感しています。みんなが集まって、美味しい料理を食べてもらえる場所を作りたかったんだと。毎日仕事を頑張っている人が、趣味や遊びを通じて人とのご縁を広げていけるような場所。そんな、みなさんのサードプレイスになるような場所として、これからも発展させていきたいです。ちなみに将棋も今でも私にとってリフレッシュのための大切な趣味なんですが、いま海外の方にも将棋を広めようという活動もしていたりしています。

気になったらスルーせずに「ちょっとやってみる」が大事

私はもともと、即断即決型の性格なんです。就職も、結婚も、こうして飲食店を始めることも、あまり深く考えすぎず、そのときの直感で決めてきました。結果的にうまく行かなかったこともありますが、そのおかげで今こうしてお店を経営しながらさまざまな可能性が広がっていると思っています。

「夢中になる」ということも、同じですよね。何か気になったことをやっているうちに気付いたら夢中になっていた、というのが本当の「夢中」だと思うんです。気になったサークルにちょっと顔を出してみたらすごくおもしろくて、気付いたら夢中になっていたとか。だから、日頃からいろいろとアンテナを張って、少しでもピンときたらスルーせずに、まずやってみてほしいと思います。

プロフィール

佐々木薫子(ささき・かおるこ)さん

神奈川県生まれ。青山学院大学卒業後、証券会社に勤務。結婚を機に、夫の実家である宮城県の印刷会社へ移る。その後外資系企業の人事職勤務を経て、2022年に東京都港区・麻布十番で「薬膳カレー 薫」をオープン。「日々を楽しく過ごすには健やかな胃袋が大切」という実感から、仕事やお酒で疲れた胃腸をいたわり、週末を楽しんでほしいと、厳選した漢方生薬・食材を使った週替わりカレーを提供する。お店の経営、薬膳やスパイスの研究の傍ら、趣味で始めた将棋も究める。

*経歴は取材当時のものです。
(取材・撮影/西 泰宏 文/白根理恵 編集/Totty)

ライター
ドーミーラボ編集部

「夢中になれる学生生活」を探求するウエブマガジンです。進学や進路のあり方、充実した学生生活をおくるために実践できる知恵やヒントを発信していきます。