ビジネスホテル「ドーミーイン」と学生寮「ドーミー」って関係あるんですか?人気のサービス・設備のルーツについてドーミーの社員が語ります。
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お話してくれた方
株式会社共立メンテナンス
ホテルグループ ドーミーイン事業本部長
藤井 俊輔
日本全国で89店舗、韓国ソウルの1店舗を含め、全90店舗の運営販売管理を中心に業務を担当。入社から一貫してホテル事業にかかわる。
株式会社共立メンテナンス
ドミトリーグループ レジデンス事業支援部長
川野 太郎
寮事業・シニアライフ事業の2つをバックヤードから支える。寮スタッフが働きやすい環境の整備や、カスタマーサービス業務を中心に担当する。社会人寮・学生寮の営業や人事部にて新卒採用や給与労務を担当するなど、幅広い経歴を持つ。
ビジネスホテル「ドーミーイン」誕生秘話
「ドーミー」と「ドーミーイン」が関係があるかないかというところですが、関係はあります。まず「株式会社共立メンテナンス」が創業初期から行っているのが学生寮の事業です。そこから5年ほど経てスタートしたのが社会人寮「ドーミー」。
当時は企業様にとって自社寮、つまり社員寮があるというのは割と当たり前の時代でしたもんね。
社会人寮「ドーミー」は、単身赴任のお父様向けに「一室から借りられる」「朝夕2食付き」というサービスではじめました。これがすごく好評だったんですよ。そしてだんだん「ドーミーみたいなホテルがあったら良い」というお声が増えてきて、それに応えるかたちで誕生したのが「ドーミーイン」なんです。
そうでしたね。
ビジネスホテル「ドーミーイン」では、社員寮の「ドーミー」でご好評だった朝食を好きなだけお召し上がりいただけるといった点や大浴場があるという点にこだわり、進化を続けています。現在だと朝食で使う食材もできるだけ地産地消のものを用意したり、大浴場もただの大きなお風呂ではなく、温泉やサウナにするなど、時代のニーズに合わせてアップデートしています。
もうまさに御名答!
私の方から付け加えさせていただくと、寮ではやっていない「ドーミーイン」のサービスとしては夜にラーメンを無料で提供する「夜鳴きそば」があったり、大浴場は高級温泉旅館に行ったような気分が味わえる空間デザインも追求しています。また、宿泊する部屋に関しても寮と違って、ツインだったり家族で泊まれる部屋だったり様々なタイプをご用意しています。あとは細かいサービスもたくさんあるのですが、全部上げていくとキリがないですね(笑)。
「ドーミーイン」は寮の存在をきっかけに誕生したため、他のビジネスホテルとは色々と視点が違う部分があるので、そこは差別化という意味ではユニークなのかもしれません。
「ドーミーイン」の「ここが寮ルーツ」
「ドーミーイン」が誕生した頃、いわゆるビジネスホテルってもっと部屋の照明が暗くて、ダウンライトがちょっとあるくらいで、あんまり部屋が明るいイメージはなかったんですよ。でも、社会人寮がルーツの「ドーミーイン」は、客室を自宅の部屋のようなとにかく明るい空間にしました。大浴場が付いているというのも寮がルーツならではですね。
今はもう珍しくなくなってしまいましたけどね。昔のビジネスホテルって、掛け布団がマットレスの間に挟まっていて、どうやって寝たら良いのかわからないというものも多かったですよね。だから「自宅と同じようにくつろげる客室」という考え方は、当時はかなり時代を先駆けていたと思います。
実は自宅の感覚を体験していただくため、部屋のつくりにも工夫があります。当時のビジネスホテルは「ドアを開けたらいきなりベッド」という空間が多かったのですが「ドーミーイン」では、ベッドルームの手前に中扉をつけて、廊下など外の空間とベッドルームを隔てるように工夫しています。
今ではこういう仕様のビジネスホテルもけっこう増えてきましたよね。
あとランドリー。これも寮からの発想ですよね。当時はランドリー付きのビジネスホテルはおそらくあまりなかったはずです。寮には長期滞在者向けに洗濯機や乾燥機をご用意していたので、それを「ドーミーイン」にも取り入れたかたちになります。しかも無料でご利用いただけます。
ビジネスホテル「ドーミーイン」が全国に広まったきっかけ
私たちが入社した時って「ドーミーイン」はまだ11店舗しかありませんでしたよね。
そうでした。知名度も全然ありませんでした。
当時はブランド自体も認知度が低いし、11店舗なのでチェーンメリットも活かせていなかったと思います。
それが現在のように全国へと広まっていったきっかけはあったのですか?
数字として上向きになっていったのは2011年あたりでしたね。これは地道に店舗数開発を進めていった結果チェーンメリットを活かせるようになり、またビジネスホテルに対する世の中のニーズの後押しもあって、数字が伸びていったような印象があります。
それまではどうだったんですか?
私が入社した頃は赤字事業でしたね。そこから少しずつ好転していき、2011年度を境に大幅に上向きになり、2015年にはインバウンド需要が増えたため、さらに伸びたというのもあります。
進化し続ける「ドーミーイン」と「ドーミー」
「ドーミーイン」の初期の頃には、ポスターなどで「進化する下宿屋」っていうキャッチコピーがありましたよね。
あったあった。今の広告物などでは明文化されていないけど「進化し続ける」というマインドは「ドーミーイン」にも「ドーミー」にも考え方の根底に生き続けていますよね。
今の時代、寮もホテルも何でもそうですけど、世の中のトレンドなど変化のスピードがすごく早くなったので、進化しないと生き残れないというのは、どの企業でも同じなんでしょうね。
そういう意味では我々の組織は動きは早い方だと思っています。
たしかに。「これいいな」と思ったらすぐにやる体制ができてますよね。現場からの意見も出るし、我々からも出すし、そしてすぐ実行する。試してみてダメだったら「やっぱり止めよう」というのも早い。
近年ですとアイスキャンディー(無料)のサービスとか。
あれはまさにコロナ禍で生まれたサービスなんですよ。コロナ禍が日本に広まった時って、外出制限などもあったので、ホテルなど我々の業界はもう本当に厳しかったんですけど、そんな中でも来ていただけるお客様は本当にありがたくて。少しでも喜んでもらいたいという想いから生まれたサービスですね。
今では名物サービスとなっていますよね。
最初は「このサービスはやる意味があるだろうか」と言われていたのですが、やり続けていったらどんどん広がっていきましたね。最初は東京から始まったのですが、今は全国の施設に広がっていますね。コロナで苦しい時期でしたが、やり続けたことによって、現在の稼働にもつながっていっているのかなと思っています。
ここが違う「ドーミーイン」と「ドーミー」
相互交流はしていますが、やはり宿泊施設と寮ですから色々と違う部分はありますよね。そもそも泊数が違いますもんね。
そうですそうです。あとは客層やニーズも違ってきますし。
あと、大きな違いでいうと、寮の場合は住んでいただく学生さんもそうなんだけど、その親御さんもターゲットになるケースもありますからね。「ドーミーイン」の場合は、宿泊される本人がターゲットであることがほとんど。だからご本人を喜ばせれば良いけれど、寮の場合は学生さんも喜ばせつつ、親御さんにも安心を提供しなければならない。これはすごく高度なことを求められているなと思います。
あー、たしかに。親御さんがどう感じるかはすごく気をつけていますね。そういえば「ドーミーイン」の知名度が高くなったおかげで、親御さんから「ドーミーインさんって寮もやってたんですね!」と言われることも結構あります。
本当は寮の方が先なんですけど、説明するとややこしいですもんね。
でも、最近はうちの事業部の営業たちも「ドーミーインをやっている会社です」って言えば、営業先にすぐに理解してもらえるから圧倒的に助かってます。昔は「株式会社共立メンテナンス」って言ってもなかなか伝わらなかったですからね(笑)。
こだわり続けたから支持される「食」
「ドーミーイン」は、寮である「ドーミー」から始まっていますので、食に関する考え方も寮がベースにありますね。もちろん寮は生活する場所、ホテルは宿泊する場所と全く用途が違うのですが。寮が季節ごとに約40日で一周する献立サイクルを既に持っているので、それをベースに「ドーミーイン」でも食事を提供しています。
寮は同じ人に毎日のように食事を提供するので、膨大なメニューがありますからね。
「ドーミーイン」の朝食って最初はバイキングじゃなかったんです。最初は、寮で提供していたメニューをもとに朝食を提供していて、そこからホテルとしてお客様のニーズに合わせて、独自の進化を遂げていきました。それで現在は完全にバイキングという形式で朝食を提供しています。ご当地メニューの提供も独自進化の過程で、たしか札幌で始まったと記憶しています。海鮮盛り放題をやって、それが一気に評判になったんですね。今で言う「バズった」というやつですね。そこから全国各地の「ドーミーイン」でご当地メニューを提供するようになりました。
「夜鳴きそば」は、実は当社が運営するリゾートホテルで先に始めたサービスなんですよね。当社の会長が言っていたらしいんですけど、ご夫婦で泊まりに来た際に「夕食が終わってしまうと、会話に困ることがある」という話をスタッフか誰かが耳にして、その手助けをしたいという想いで、深夜に近い時間帯になってしまうけど「夜鳴きそば」をやってみようということになったようです。
一時期、チャーシューを入れたものもお出ししていたんですが、カロリーを気にされる方もいらっしゃいますし、ちょっと夜に食べるには重いという声もあったので、だんだんサラッと食べられるシンプルな「夜鳴きそば」になっていきました。
スタートしてから改良に改良を重ねて、現在のスタイルになっているわけですね。
はい。ただこの「夜鳴きそば」、部屋で寝るだけ、の方には良さが伝わらないんですよねぇ(笑)。
(笑)。じゃあ「ドーミーイン」を楽しみ尽くすにはどんなスタイルがオススメなんですか?
チェックインして、お風呂に入って「アイスキャンディー(無料)」を食べて、夕食後に小腹が空いたら「夜鳴きそば(無料)」を食べて寝る。目覚めと共に大浴場に行って朝食(バイキング)を食べて出発してもらうと、うちの全てを体験していただけます。
「ドーミーイン」のフルコースですね(笑)。あと、サウナーからの支持もすごいってよく耳にするんですけど、どういうところが評価されているんですかね?
サウナーからも高評価の「ドーミーイン」のサウナ
サウナは基本的に高温で、利用する段によって温度や湿度の差が体感でき、水風呂の温度にもこだわっています。あとはどんなに狭い大浴場でも「整いスペース」は必ず設けるようにしています。「整いスペース」はサウナーにとってめちゃくちゃ大切なスペースになりますので、欠かせないですね。サウナって派手な設備を置いているところもありますけど、実際に大事なのは、サウナ内の細かい温度・湿度へのこだわりだったり、水風呂の温度の調整だったり、一見地味なところが非常に大切だったりするんですよ。ちなみに各種の浴槽と水風呂は季節によっても温度を変えています。
すごいこだわりようですね。
「ビジネスホテルなのにここまでやる?」っていう部分がサウナーの方々に評価いただいているところなのかなと思っています。実際、ビジネスホテルでここまでサウナのクオリティにこだわっているところは他にないんじゃないですかね。
そういえばドラマ「サ道」でも「ドーミーイン」のサウナを気に入っているという会話が出ていましたよね。
「ツルピカさん」が出てきた回ですよね!「ドーミーイン」全体のサウナのクオリティを褒めてくれつつ「特に八丁堀のドーミーインは大浴場も素晴らしくて外気浴もできる」って具体的に褒めていただいてすごく嬉しかったです。
最近では学生寮の「ドーミー」でもサウナ付きの寮が増えてきています。実際に学生さんからの評判も高いです。
そうなんですね。サウナ好きの若い方も増えてきているようですし、サウナは正しく入れば自立神経を整えたり、脳疲労を解消してくれたり、免疫力を上昇させてくれたりと、健康面でのメリットが非常に大きいので、学生さんの健康はもとより、勉強のリフレッシュなどにも役立ってくれると思っています。
相乗効果で進化し続ける「ドーミーイン」と「ドーミー」
今お話しされていたのは、社会人寮で得た気づきを「ドーミーイン」に活かした話でしたが、逆のパターンもありますよね。「ドーミーイン」で得た気づきを寮の「ドーミー」に活かしたケース。
たしかにそれもありますね。相乗効果というか。
昔の寮って、とにかく大勢が入浴できれば良いという発想だったので、今思えば割と汚かった(笑)。一方「ドーミーイン」に宿泊されるお客様は出張だけでなく、旅行で宿泊される方もいるので、どんどんスタイリッシュな、デザイン的にも優れた大浴場を追求していったんですよ。この経験値を活かして新築の学生寮などに、洗練された大浴場を設置するケースが増えていきました。それがきっかけでまた入居者が増えることもありました。
あと、シャワーブースもそうですよね。
そうです。「ドーミー」の寮はもともと各居室に浴槽が付いていたのですが、「ドーミーイン」と同じように「浴槽に浸かりたい人は大浴場へ、シャワーだけで済ませたい人は各居室で」というスタイルも採り入れつつあります。最近はシャワーだけで良いという人も増えているので、浴槽がない分、空間を有効に利用できるようになりました。
改めて考えてみると、実はかなり「ドーミー」と「ドーミーイン」で相互交流がありますよね。
たしかにね。「ドーミーイン」での良かった点・反省点を「ドーミー」に活かすこともあれば「ドーミー」での良かった点・反省点を「ドーミーイン」に活かすこともある。寮とホテルというそれぞれ違う視点だからこそ、お互いの業態だけだと気づかない部分に気づけるというのは大きいですね。
「相互理解→相互支援→相互成長」できているのが、我々の大きな強みですね。これからもお互いに良き仲間、良きライバルとして成長し続けられればうれしいなと思います。
本当におっしゃる通り!これからもよろしくおねがいします。
取材:西泰宏/文・田中文庫/写真・竹田武史
2022年12月22日 記事公開 2024年1月31日更新
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