ひとりの夢は、今は「みんなの夢」に。叶えるために大切にしてきたことと、大切なこと—島田 紀子(Pearl)さん(シンガーソングライター、音楽スクール・制作事業『Good Communication Japan』代表)【連載・夢中人 vol.1】
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連載企画・夢中人とは
「夢中になれる学生生活」をテーマにした『ドーミーラボ』の連載企画、「夢中人」。夢中に生きる人たちをインタビューし、夢中になる方法や必要な経験、生きる上でのヒントを考察します。
「表現する人を応援したい」という気持ちから、社名を「Good Communication Japan」にしました。何のために音楽をやりたいかというと、「伝えたい人がいるから」。「コミュニケーション」という言葉を使ったのはそのためです。
音楽スクール、映像制作、Web制作、音楽制作、という「スクール事業」と「制作事業」の2つの柱で会社を経営しています。
子どもの頃から音楽が身近なものだった。
音楽に携わる仕事がしたいと思ったのは中学生の頃。
「音楽の力」を感じる機会は子どもの頃から多々ありました。コンサートや舞台を観に行って、芸術をやっている方たちからエネルギーをもらったことも。家族はみんな音楽が大好きです。お母さんは聖子ちゃんや百恵ちゃんが好きで、おじいちゃんは演歌が好き。家にカラオケの機械があったんです。父はクラシックが好きで、大きなスピーカーも家にありました。4歳から22歳まで、ピアノを続けていました。
「音楽が好きだ」と自覚したのは小学生の頃です。バンド全盛期だった13歳の頃、ギターボーカルをやったり、バンドを始めたりしました。クラシックからポップスに移行したのがその頃です。テレビで流れている音楽を耳コピしてピアノを弾くのが楽しくなり、ポップスの構成を自分で紐解くようになりました。将来にいざ使うとは当時は思っていなかったけれど、何度も弾くことでコード進行やメロディー構成については身についたかもしれません。将来は音楽に携わる仕事がしたいなと、既にその時には思っていたと思います。
仕事にすることは、夢のまた夢だった。ただ、その時の経験は今に生きている。
大学は音楽の専門学校や音大でもなく、経営学部です。「教養を深く学んでほしい」「女性の18歳〜22歳の期間は、とても大切な時間だから、幅広くいろんな考え方を持つ人とたくさん接してほしい」と言われ、許しを得ることができず・・・音楽系の学校には行けませんでした。でも、経営学を学ぶ中でとても良い先生と出会えたんです。マーケティングとブランディングを学んだんですけど、ハマってしまいました。世の中の商品陳列やラベルの色など、プロダクトにはどういう背景があるのかを知るために色んな本を夢中で読んで様々な企業について気づきを得ました。
ですが、大学卒業前に「このままでいいのか」という思いに行き当たりました。音楽をやらずに就職する?本当にそれでいいのか?と。「一度は死ぬ気で挑戦してみて、ダメだったら就職しよう」と決めました。4年の初めくらいかな。面接を受けるたびに「本当にやりたいことは何だろう」と悩み、ついには音楽をやろうと決めて就活を辞めてしまいました。
結果的には、当時学んだ事は、経営者となったいま、とても役に立っています。
父から与えられた3年間と、その結果。
実家に行って音楽をやりたいと伝えたら、父との1対1の場を設けられました。父から「どんな人間になりたいのか」と問われました。途中で父は泣いてしまうし、私としては絶対に許してもらいたいとお互いに譲れない状態になりました。「音楽をやってプロになりたい」と言ってはいるものの、当時の私が未熟だったことを父は見抜いていたんでしょうね。父は私が本気なのかを試したいということで、3年という時間を与えてくれました。
3年で成果をどうあげるかを考えた結果、1年間修行することにしました。師匠から歌謡曲とオールディーズを教えてもらいました。学ぶべき音楽の基礎はそこで学びました。そして自主盤を作り、一人で名刺とCDを持って全国のCDショップを回りました。その中で一つだけTSUTAYAさんでの委託販売が決まり、CDを置かせてもらったところ、私の曲がアイスホッケーチームの公式応援ソングになったんです。そこから全てが変わっていきました。未だに電話に出た瞬間を覚えています。手が震えました。担当の方から「あなたの曲を応援ソングにしたい」と言われて「え~!」と大声を出してしまいました。
次に出したCDがタワレコ(*)でセールス1位になり、地元の新聞紙に取り上げてもらいました。その新聞とチャート1位の紙を持参し、両親のもとへ行きました。
*タワレコ:大手CDショップチェーン「タワーレコード」の略称。
「まだ夢の途中」。誰かを励ます音楽をみんなで叶えていきたい。
闇雲に片っ端からやっていたところから、やらなきゃいけないことがわかったのがその時期です。ずっと20代は曲を作って歌い続けて「音楽で誰かを励ましたい」という軸を持って頑張っていました。事務所に所属することなく一人でやっていたから、時間の使い方も無茶苦茶で。軸を見失ってしまいそうにもなりました。
「1位になりたいわけじゃない」「お金を稼ぎたいわけではない」「有名になりたいわけじゃない」と何度も自分に問いかける、がむしゃらな日々でした。「誰かを励ましたい」という軸があるからこそだんだん休めなくなってしまって、身体を壊したのが30歳。何か声をかけられれば「やります!」と何でもやってしまっていたので、自分のことは二の次だったんです。
身体を壊した時に「私が倒れたらもう夢がここで終わってしまう」と初めて思い知らされました。病院に通いながらも現場は休まずこなしていたけど、「もう限界かもしれない」と。「辞めたくない」と思ってはいたので、「何か変えないと」と思いました。
自分がしたいことってなんだろうと改めて考えて、人からかけてもらえた「励まされたよ」という一言を思い返しました。ファンの方からもらった手紙に書かれている言葉を読み直して「まだ夢の途中なんだよな」「音楽で人を励ましたいという夢を叶えるにはどうしたらいいんだろう」と考えて「あっ!」と思いついたのがスクール事業だったんです。
ボイストレーナーをやっている先輩の学校に行き、学ばせて頂き、自分が歌うことで励ますのではなく「誰かがステージに立った時、その人自身のベストパフォーマンスをしっかり出せる環境を作り、育てよう」と思いました。自分一人だけでなく「みんなでやればいい」に変わったのがこの頃で、会社を作ったのも同じ30代になってから。「自分が表に立つ」のではなく「目の前にいる子たちをどうステージに上げていくか」という方向にシフトしました。
スクール事業を始めて、さらに世界が広がった。「裏方という名の表」、になった。
スクール事業を始めてからは人生がもっと楽しくなりましたし、夢も広がりました。周りからはステージに立つ機会が減ったことで、「よく裏(裏方)に入れたね」「ダメになったから先生になったんでしょ」なんて色々言われましたが、そういった声と同時に「そう決めたならそれでいいんじゃない」とも言われました。
スクールをやるにあたって「幅を広げる」「シフトしていく」というイメージで、それまでの活動と全く別のことをしているとは思っていません。体調を崩したことについては、当時、迷惑をかけたくないと思い黙っていました。自分にとっても大事な時だとどこかで感じていたので言わずにいたんです。両親にすら言っていませんでした。
「ドーミーラボ」を見ている学生の皆さんへ―
受験勉強は、自分作りの期間。自分と向き合う時間である。
受験生の時期に気がついたことがあります。目的に対してどういうふうに時間をマネジメントしていくかということです。一日で何をこなせばいいのか、自分の性格を判断して、「この教科を勉強し始めると集中力がなくなるから他の教科を先にやろう」などと時間を管理できるようになりました。「一日でやるべき勉強のうち基準値まで達したら遊びに行ける」という動き方や、そういう時間への考え方の軸ができたのは受験のおかげです。
メディアはあくまで手段。情報ばかりと向き合っていると、周りの人の存在の大切さ、目の前の人が見えづらくなる。夢を叶えるために、まずは近くにいる大切な人たちに気づこう。
今の10代には天才がたくさんいると感じています。どんどん発信したほうがいい。
ただ、情報が大量にありすぐ手に入れることができる分、自分と向き合う時間が持てていない。集中して自分のための時間を作って自分と話す時間がなく、他人のことや外側の情報だけ気になってしまう。YouTubeもTikTokもすべてあくまで「手段」「ツール」なんです。
まずは自分が大切にしていることは何だろうなど心に目を向け、そして目の前の人のことが見える人になってほしいと思います。表現するにあたっても、社会人としてもそうです。情報ツールを使うと、いろんなところに注意が行ってしまうし、たくさんの人と繋がっているはずなのになぜか「独りだな」と感じやすい。だから、自分のすぐ近くにいる大切な人たちに気づく力を持ってほしいです。
夢を叶えるエネルギーや幸せだと思う気持ちは心の中から湧いてくるもので、誰かから与えられるものではない。感性を高めて内側から湧いてくるものを信じてほしいです。
プロフィール
島田 紀子(しまだ・のりこ)
合同会社Good Communication Japan 代表取締役CEO
栃木県出身。4歳から始めたピアノをきっかけにバンド、ボーカル、作詞作曲活動を経て、2015年に音楽スクール 「Canaria Music Studio」、 2018年5月 合同会社「Good Communication Japan」を設立。表現活動の支援全般を行う。
http://www.gc-japan.com/
(文・雨庭・Totty/撮影・取材・西泰宏・眞道悠太朗)
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