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進路に迷う高校生と保護者へ|大学ジャーナリストが教える後悔しない大学選び

進路に迷う高校生と保護者へ|大学ジャーナリストが教える後悔しない大学選び
「やりたいことが見つからない」。いま、進路選びに悩むあなたへ。進学の専門家として全国の高校、保護者会などで年間100回近く講演を行う、大学ジャーナリストの石渡嶺司さんに、『やりたいことが決まっていないときの大学・学部選び』について伺いました。

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「やりたいことが見つからない」。いま、進路選びに悩むあなたへ。進学の専門家として全国で年で100回近く講演を行う大学ジャーナリストの石渡嶺司さんに、『やりたいことが決まっていないときの大学・学部選び』について伺いました。

「やりたいことがわからない」、は当たり前

──受験生からはどんな相談が多いですか?

石渡さん(以下、石渡): 圧倒的に多いのは「やりたいことがはっきりしない」という相談ですね。でも、これは高校生の圧倒的多数派なんです。全然恥ずかしいことではありません。

私自身、高校生のときに現在の仕事を想定していませんでしたし、これは社会人だって同じです。高校生が5年後、10年後を想像できるはずがないんです。

──でも進路を決めなければなりませんよね?

石渡: 無理に方向性を決める必要はありません。親や先生に押し付けられた進路は、どこかで破綻します。むしろ「わからないなら、なおさら大学進学をした方が良い」というのが私の考えです。

なぜ「わからない」からこそ大学なのか

石渡: 理由は3つあります。

①生涯賃金の差
高卒と大卒では、生涯賃金は5000万円から1億円の差が出ると言われています。社会の高度化を考えると、この差は今後さらに拡大するでしょう。

②経済的負担の軽減
新たな修学支援制度(※1)で国からお金がもらえるし、奨学金の返済を企業が負担する奨学金返済支援制度(※2)を約3700社もの企業が導入しています。企業によっては最大300万円まで奨学金返済を肩代わりしてくれます。

③大学で方向性が見えてくる
現在の大学は教育プログラムが充実しています。多様なプログラムを設ける大学も増えているので、むしろ大学で将来のキャリアが見えてくる可能性が高いです。

※1:新たな修学支援制度とは、正式名称は「高等教育の修学支援新制度」。2020年4月に開始された制度で、住民税非課税世帯およびそれに準ずる世帯の学生を対象に、授業料・入学金の減免と給付型奨学金(返還不要)の支給を行う。さらに、2025年4月からは「多子世帯(扶養する子どもが3人以上)」について所得制限を撤廃し、授業料・入学金を国の定める上限まで無償化するなど、支援の拡充が行われている。
※2:奨学金返済支援制度とは、企業が従業員の奨学金返済を支援する制度。従業員に代わって企業が日本学生支援機構などに直接返済を行い、従業員の経済的負担を軽減する仕組み。

「専門職」と「総合職」という新しい分類

──どのような基準で学部を選べばいいでしょうか?

石渡: 私が提案しているのは「専門職」と「総合職」の分類です。

専門職は、医学部を出て医師になるように、学部と職業が直結するもの。なりたい職種や資格、あるいは目標がはっきりしている人向けです。

総合職は、学部の教育内容と企業のビジネス内容が必ずしも直結するとは限りません。文学部でも経営学部でも、就職先は銀行かもしれないし、IT企業かもしれない。

例えば文学部で『源氏物語』を研究しても、『源氏物語』をビジネスにしている企業はほとんどありませんよね。じゃあ文学部の学生がニートになるのか、というわけではない。幅広い業界で総合職として活躍しています。

だから、学部選びに完璧な一致を求める必要はありません。「少しは興味が持てる」、この程度の感覚で十分です。

実例:理工学部からレコード会社へ

──実際の事例があれば教えてください。

石渡: 有名大学の理工学部に通う学生から「周りは自動車やロボット作りに熱心だが、自分にはその情熱がない。大学をやめるべきか」という相談がありました。

私は「最低限の単位は取って、勉強以外で夢中になれるものを見つけてみてはどうか」とアドバイスしました。その学生は最終的に「レコード会社」に就職したんです。

大学ではアニメサークルに入って活動していて、そのレコード会社が「理系人材も欲しい」「アニメ分野にも事業を広げたい」と考えていた時期と合致。その結果、理系的思考とアニメの知識、両方が評価され、採用されました。

学部の専門性と就職先は、直結していなくても問題ないという好例ですね。

大学選びの実践的なステップ

──具体的には、大学選びはどう進めればいいでしょうか?

石渡: まず情報収集ですね。今は大学独自のYouTubeチャンネルも増えているので、動画で雰囲気がよくわかります。オープンキャンパス、あるいは進学相談会などのイベントで、在学生と交流したり、個別相談ブースなどで職員や先生に直接話を聞いてみたりすることも重要です。

そして、文学部と経営学部と社会学部で迷っているような場合は、どれも同じ文系学部ですが教育内容は少しずつ違うので、「これなら興味を持てそう」という直感を大切にしてください。そして必ずしもぴったり一致させる必要はありません。

「都市部に出たら戻れない」は過去の話。

──「一度都市部に出ると地元に戻れない」という親御さんの心配もありますが…。

石渡: それは過去の話です。コロナ禍でオンライン就職活動が定着したことで、都市部だから、地方だからといって不利になるということはありません。

さらに言えば、地方企業も生き残りをかけて多様な人材を積極的に求めています。一度都市部に出た学生を歓迎する企業も増え、都市部から地方へのUターン転職も、今後もっと広がっていくでしょう。「場所」による制限は、今や就職活動の大きなハンデではなくなっています。

『わからない』を受け入れる勇気を

──進路選択で悩んでいる受験生にメッセージを。

石渡: 進路選択における「心のスイッチ」とは、無理やり方向性を決めることではありません。わからなければわからないなりに、自分のキャリアを考えていく。それが本当の「心のスイッチ」です。

明確な線路ではなく、川の流れを見つける程度の感覚で大丈夫。少しでも興味があることを見つけられれば、まずはそれで十分です。「わからない」という状態を受け入れながらも、前に進む勇気をぜひ持ってください。


プロフィール

石渡嶺司(いしわたり・れいじ)

石渡嶺司(いしわたり・れいじ)
東洋大学社会学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。教育、就職・キャリアなどを専門に扱う。全国の高校などで年間80〜100回の進路講演を実施。コメンテーターとして『ひるおび』『バイキング』などのテレビ出演も多数。主な著書に『大学の学部図鑑』『就活のバカヤロー!』など多数。

(取材:西泰宏 撮影:白浜哲 取材場所:ドーミー御茶ノ水)

※この記事は2025年9月に実施されたインタビューを基に作成されました。

ライター
ドーミーラボ編集部

「夢中になれる学生生活」を探求するウエブマガジンです。進学や進路のあり方、充実した学生生活をおくるために実践できる知恵やヒントを発信していきます。

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