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特集 夢中人 - 夢中に生きるプロフェッショナルからのヒント
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「生産性のない時間」こそが、自分を助けてくれる。——文筆家・岡田悠が語る「人生という旅」の歩きかた【連載・夢中人 Vol.11】

「生産性のない時間」こそが、自分を助けてくれる。——文筆家・岡田悠が語る「人生という旅」の歩きかた【連載・夢中人 Vol.11】
様々な分野で「夢中」に生きる社会人、プロフェッショナルの皆さんにインタビューし、その原点や、自分らしく生きるためのヒントを探る「夢中人(むちゅうじん)」。
今回は文筆家の岡田悠さん。

Webメディア「オモコロ」等での執筆活動や、著書『0メートルの旅』、そして最新刊『駅から徒歩138億年』で知られる岡田さんは、かつて「ドーミー立川」で学生生活を過ごされました。

卒業後のファーストキャリアは外資系投資銀行。そこで見た「資本主義の極致」、そしてスタートアップ時代に追求した徹底的な「効率化」。そうしたキャリアを経て、なぜ今「非効率」な旅や執筆に夢中になるのか。そして多くの人の心を掴むのか。

一見遠回りに見えるその生き方には人生を楽しむヒントが隠されていました。岡田さんのキャリア変遷と、「人生という旅」において大事なものについて伺いました。

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プロフィール

岡田 悠(おかだ・ゆう)
1988年、兵庫県生まれ。大学進学を機に上京し、学生寮「ドーミー立川」に入寮。学生時代はバックパッカーとして世界各地を旅する。大学卒業後は外資系投資銀行およびfreee株式会社にてプロダクトマネージャーを務める一方、兼業ライターとしても活動。現在は文筆家。著書に『0メートルの旅』『10年間飲みかけの午後の紅茶に別れを告げたい』がある。2025年10月、約5年ぶりとなる新刊『駅から徒歩138億年』を上梓。note、ポッドキャスト、著作など多岐にわたるメディアで幅広く活躍している。

「広い世界」へ行きたかった

──岡田さんは現在、文筆家として活躍されていますが、昔から「書くこと」は好きだったのですか?

そうですね、子供の頃から本を読むのは好きでした。

ただ、書き始めたのは大学生になってからです。mixi(※1)が流行っていた世代なんですが、そこで日記を書き始めたら友達の反応が嬉しくて。それが原点ですね。

──兵庫県のご出身ですが、東京に進学されたのはなぜですか?

とにかく田舎から出たくて、「都会に行きたい」「海外に行きたい」というのが一番の理由です。 大学生になったら海外に行くもんだろうと勝手に思っていて(笑)。実家からできるだけ離れて、広い世界へ飛び出したかったんです。

「資本主義の極致」と「効率化」の果てに

──そこから実際にバックパッカーとして世界を巡るわけですね。卒業後は、外資系投資銀行に入社されたとか。

当時、リーマンショック(世界的な金融危機)の直後くらいだったんです。だからこそ、「資本主義の極致を見てみたい」という好奇心で入社しました。 そしたら想像の10倍すごくて(笑)。朝9時から翌朝5時まで働くのが当たり前。 昨日まで隣の席にいた同期が、翌日にはクビになって消えている。そんな競争社会でした。「なるほど、世界はこういうメカニズムで動いているのか」と勉強にはなりましたが、1年で辞めました。

──その後、会計ソフトのfreee(※2)に入社されますね。

 はい。投資銀行を辞めて、当時まだ社員数30人くらいだったフリー株式会社に入りました。 そこでの仕事は「世の中の非効率な業務をテクノロジーで解決すること」。プロダクトマネージャーとして、どうすればユーザーが1秒でも早く、効率的に業務を終えられるか、そればかりを10年間考え続けました。

──徹底的に「効率」を追求するお仕事ですね。

そうなんです。仕事ではゴリゴリに合理的なことをやっている。

だからこそ、反動でプライベートでは「逆のこと」がしたくなったんです。それが「旅」であり、「文章を書くこと」でした。

旅とは「定まった場所」をひととき離れること

──岡田さんにとっての「旅」とはどういうものですか?

辞書的な意味を借りるなら、「定まった場所をひととき離れること」ですね。 「定まった場所」というのは、物理的な場所だけでなく、日常という「定まった状態」やルーティンも含みます。

そこからひととき離れて、非日常に身を置き、また戻ってくる。そうすると、元の日常がちょっと違って見えるんです。その視点の往復こそが旅の本質だと思っています。

──旅には「一人」で行くことを推奨されていますね。

誰かと一緒に行くと、どうしても相手に気を使ったり、日常をそのまま持っていってしまうんです。それではスイッチが入りません。

だから、真っ白な状態で、一人で行く。 あと、動画とかもあんまり撮らないですね。撮ることに集中すると、手段と目的が逆転しちゃう気がして。

──不便やトラブルも楽しむスタンスですね。

モロッコで初日に荷物を全部盗まれたり、中東で現地の数字が読めなくてバスにも乗れなかったり(笑)。 でも、そういう「できない」経験をすると、自分の生存本能のスイッチみたいなものが入って、フテブテしくなれるんです。多少仕事で失敗しても「まあ、シリアに行ったときはもっと何もできなかったもんな」と思えるようになるというか(笑)。

「泳げます」という証明書はいらない

──最近は、新しい学びにもハマっているとか。

そうですね。この歳になって新しいことを学ぶのが楽しくて。

たとえば、最近スイミングスクールに通おうかと思ってるんです。僕、山育ちでプールの授業がなくて全く泳げないんですよ。この歳になって泳げるようになったら楽しいだろうなと思って。

あと、理科の勉強も小3のドリルからやり直してます。文系なので物理の本とか読んでも基礎がわかってないことに気づいて、「じゃあ小学校からやり直そう」と(笑)。

一度失効した運転免許を教習所に通って取り直したのもそうです。学生時代はただの作業でしたけど、大人になって改めて試験を受けたり、運転が少し上手くなる感覚自体がすごく面白くて。

──まるで旅のようですね。

そうですね。どれも、結果より「過程(プロセス)」が面白いんです。

別に泳げるようになって「泳げます」っていう証明書が欲しいわけじゃなくて、泳げるようになるまでの過程を楽しみたい。理科も、勉強することで世界の解像度が上がって、視点が変わるのが楽しい。

今の社会はどうしても「タイパ」とか効率、最終的なゴールを求めがちですけど、僕はその途中にある「できるようになっていく過程」そのものを楽しみたいんです。

過去の自分に会いに行く「時間旅行」

──新刊『駅から徒歩138億年』にも、そうした時間の捉え方が表れているように感じます。

そうですね。元々趣味で川を歩くのが好きで、それを本にしようという話から始まったんです。そこに「時間」というテーマが合わさって、物理的な距離ではなく時間軸を移動するような、そんな旅の本になりました。

実はこのテーマに行き着いたきっかけの一つが、かつて住んでいた「ドーミー立川」に泊まりに行った時の体験なんです。

──ドーミーへの帰寮体験はいかがでしたか?

すごく不思議な感覚でした。 立川はいま暮らしている場所と距離的にはそんなに遠くない場所なんですが、まるで違う時代に飛ばされたような感覚でした。僕の中では、地球の裏側に行った時と同じくらい「旅感」がある一晩でしたね。 帰ってくると、その時代の空気をちょっと持ち帰って家に帰ってきたような気分になりました。

「ピュアな時間」は、ただそこにあるだけでいい

──ドーミーでの生活は、岡田さんにとってどんな時間でしたか。

一言で言うなら、本当に「毎日が楽しかった」ですね。

みんなお金がないから、誰かの部屋に集まって朝までゲームをしたり、桃鉄をやったり。朝食の時間まで起きていられるか耐久レースをしたりして。

──いわゆる「生産性のない時間」ですね。

当時は「生産性があるかないか」なんてことすら考えていませんでした。だからこそ、そこにあったのはすごく「ピュアな時間」だったなと思います。

振り返ってみて、あの時間が今のキャリアに役立っているかというと、別に繋がっていなくてもいいと思うんです。

無理に「あのおかげで今がある」と繋げなくても、その時間が独立して自分の中に残っているだけで、十分価値がある。そう思える体験がドーミーにはありました。

思い出の「利子」を受け取ろう

──最後に、現役の学生さんや、これから社会に出る方へメッセージをお願いします。

「思い出の利子」という考え方があるんですが、若いうちに強烈な体験をしておくと、それを思い出すだけで何度も楽しめる。つまり、一生「配当」を受け取れるから得だよね、という話で。

実際、1年前にした旅の話で、20年後も酒が飲めたりしますからね。死ぬ間際にいい思いをするより、早めに投資しておいた方が絶対にお得だという気がします。

ドーミーでの生活も同じです。あそこで過ごすピュアな時間や、友人たちと擦り続ける思い出は、将来ものすごい利子を生んでくれる資産になります。

ぜひ、今のうちにそういう時間をたっぷりと味わってください。

関連リンク

(※1)mixi:2000年代中盤に日本で爆発的に普及したソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)。招待制で、日記機能などを通じて友人との交流が行われた。
(※2)freee:クラウド会計ソフトなどのSaaS型バックオフィス支援サービスを提供する企業。
(※3)note:クリエイターが文章、マンガ、写真、音声などを投稿できるメディアプラットフォーム。

(取材・西泰宏/撮影:黒田敬太)

ライター
ドーミーラボ編集部

「夢中になれる学生生活」を探求するウエブマガジンです。進学や進路のあり方、充実した学生生活をおくるために実践できる知恵やヒントを発信していきます。