1. Home
  2. 将来のこと
特集 AI時代の進学をどう考える?―ジャーナリスト 佐々木俊尚さんが語る、AI時代を豊かに生きるためのヒント。
高校生におすすめ! 将来のこと将来のこと

AI時代に重要なキーワード:「摩擦」と「縦のつながり」

AI時代に重要なキーワード:「摩擦」と「縦のつながり」
AIやテクノロジーの進化で、便利さが当たり前になった時代。
けれど、人とぶつかる“摩擦”や世代を超えたつながりの中にこそ、学びがあります。
ジャーナリスト・佐々木俊尚さんに、AI時代を楽しみながら生きるためのヒントを伺いました。

⏱この記事は約3分で読めます

摩擦や刺激を楽しむことの重要性

AIが急速に進化し、生活や学びにおける利便性は格段に高まっています。生成AIやエージェントAIが先回りして提案してくれる未来は、すでに現実のものとなりつつあります。しかし、その便利さの裏側で、私たちは「摩擦のない世界」に閉じ込められてしまう危うさを抱えている──佐々木さんはそう語ります。

AIとやり取りしていると、自分にとって気持ちのいい答えばかりが返ってきます。確かに心地よいのですが、同調スパイラルに入り込み、刺激が少なくなる。人間同士の関係では必ず摩擦や対立があり、それが面白さを生む。大事なのは、その摩擦を避けるのではなく、“どう面白がれるか”なんです。」

人と出会い、価値観がぶつかるときに生まれる摩擦。それは恋愛でも友情でも同じですし、共同生活や学びの場でも常に存在します。佐々木さんは「気持ちよさだけを求めれば、AIで十分になってしまう」と警鐘を鳴らします。

「今のテクノロジーは、何でもスムーズにしてしまう。音楽だって、Spotifyでワンタップすれば聴ける。生成AIも、質問しなくてもエージェントが先に答えを出してくれる。そんな摩擦のない世界が進んでいけば、逆に“自分が世界とつながっている感覚”を失ってしまうんです。」

だからこそ、あえて“めんどくさいこと”を楽しむ姿勢が大切だといいます。例えば登山に出かけても、仲間が遅刻したり、予定していたバスに乗れなかったり、計画が狂うことがある。そんなとき「面倒だ」と切り捨てるのか、それとも「予想外の出来事も含めて楽しもう」と思えるのか──そこで人生の豊かさが大きく分かれるのです。

「めんどくさいけれど、だからこそ記憶に残る。イレギュラーを面白がれる人生でなければ、AI時代はどんどん退屈になってしまうと思います。」

「変人」と出会うことの価値

さらに佐々木さんは、優秀な人だけに囲まれる危うさについても言及します。

「今の社会には優秀な若者がたくさんいます。成績もよくて、家柄もよくて、見た目も整っていて──。でも、そういう人たちだけとつながっていると、遠くの地平線が見えなくなってしまうんです。むしろ、一芸に秀でているけれど変わった人、いわゆる“変人”との出会いの方が刺激になる。

意識の高い同世代との横のつながりはもちろん大切ですが、縦のつながりや異なる文化圏との出会いも欠かせないといいます。

多様性というと海外に目を向けがちですが、実は身近な社会の中にも縦の多様性は存在します。同じ都市文化に浸っていると、世界中どこへ行っても似たような景色しか見えない。けれど、ちょっと意識をずらせば、本当の多様性に触れることができるんです。」

地方とつながることが新しい視点を生む

佐々木さん自身も、東京・軽井沢・福井という三拠点生活を実践しています。その経験から、地方とつながることも一助になるとされています。

東京にいると、自分が日本の中心にいるような錯覚に陥ります。でも、地方で出会う人たちは全く違う価値観を持っている。例えば、多拠点生活の中で、地方の工務店の社長や農業をしている人たちと話していると、東京では得られない視点が広がるんです。」

地方には、都市にはない人間関係の濃さや「貸し借りの文化」が残っています。たとえば町内会や消防団など、濃密なつながりの中で「頼まれごとを引き受け、次は返す」という関係性が自然と続いていく。それは一見すると不便で息苦しいもののように思えますが、実は長く続く信頼を生む基盤になっているのです。

「東京では効率を求めて“関係を生産的に終わらせよう”と考えがちですが、地方ではそうではない。貸し借りを繰り返しながら人間関係が長期的に続いていくんです。それはAIやデジタルサービスでは決して代替できない、人間ならではの営みだと思います。」


ドーミーラボ編集部が感じたこと

ついつい、私自身も心地良い情報をついつい優先的に見てしまっていることを気づかされました。

快適さに流されず、摩擦や不便さを前向きに受け止めること。その視点こそが、これからの学生に求められる力なのかもしれません。

プロフィール

佐々木俊尚(ささき・としなお)

1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、『月刊アスキー』編集部を経て、2003年よりフリージャーナリストとして活躍。ITから政治、経済、社会まで幅広い分野で発言を続ける。現在は東京、軽井沢、福井の3拠点で、ミニマリストとしての暮らしを実践。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)、『時間とテクノロジー』(光文社)など。
https://x.com/sasakitoshinao

ライター
ドーミーラボ編集部

「夢中になれる学生生活」を探求するウエブマガジンです。進学や進路のあり方、充実した学生生活をおくるために実践できる知恵やヒントを発信していきます。

tagsTAGS

タグ検索